利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(51) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

社会的不幸の中で生き延びる鍵

因果律(どのような事象も全て何らかの原因の結果として生じるという考え方、法則)を基に、一人ひとりの「個人的因果」と集合的な「政治的因果」を考えることができる。後者による結果が、“社会的な不幸”となって現れ、今月に入ってこれまで以上にそれが明らかになってきているのが今の日本の状況だ。

「まん延防止等重点措置」だけではなく、4月25日から東京・大阪などに3回目の緊急事態宣言が施行され、今月12日には延長された。同時に愛知・福岡にも発出された。さらに、16日から、北海道・岡山・広島が対象地域に加わった。特に大阪の状況は極めて深刻で、人口あたりの週間死者数は悲惨な状況にある国々(インドやアメリカなど)を超えるという惨状に陥ってしまった(5月7日)。政府は相変わらず五輪を強行する姿勢を崩さないので、それを憂う20万人以上の人々が、開催中止を求めるオンライン署名に、開始から約49時間のうちに署名した。短時間にこれほどの署名が集まったのは、このまま現状を顧みずに進むと、第二次世界大戦への無謀な突入を想起させるような過ちに陥りかねないとの懸念を大勢の人が持っているからだろう。

しかし、暗い状況下でも、一人ひとりが可能な限り前向きに生きていくことは大切だ。私たちは、集合的な行為や政策の影響を受けざるを得ないが、同時に一人ひとりの生き方や努力によって、個々人が影響を受ける度合いや、個人的因果による幸不幸を増やしたり、減らしたりしていくことができるからだ。トランプ政権のコロナ軽視政策の影響は、アメリカ全土に及んだが、時の大統領の意見に影響されてマスクを着けずに集会参加などの行動を取った共和党員に比して、政権に距離を置いて感染防止に努めた人々は感染確率がその分だけ低かったはずだ。

心理学の発展に非常に重要な影響を与えた著作に、ナチス・ドイツの強制収容所での経験を基にした『夜と霧』(1946年)という歴史的名著がある。著者の精神科医ヴィクトール・フランクルは、強制収容所に入れられた。絶望的で悲惨な状況下で人々が次々と死にゆく中、生きる意味を持ち続けた人々が生き延びて生還できたというのだ。この体験からフランクルは、人生の意味の重要性をさらに深く認識し、「人生の意味」を見いだすことによる精神療法(ロゴセラピー)を提起したのである。

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