「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(17)番外編1 文・黒古一夫(文芸評論家)

「ユートピア」を求めて(1)

この連載の延長が決まった時、まず考えたのは、戦後73年を10年ごとに区切って「時代」の声を伝えるという趣旨からは外れるが、「戦後社会」という大きな枠組みで捉えた場合、私たちが生きてきたこの社会の現実を相対化する、あるいは問題点を浮き彫りにする作品のことであった。

それらの作品の特徴は、その構造やそこに底流する思想において、言葉の本来の意味での「ユートピア(utopia)=現実にはどこにも存在しない理想郷」への志向を内包していることだった。言い換えれば、それらの小説は、苛烈な現実世界と真正面から向き合いながら、その現実とは真逆な「もう一つの世界」を構想している、あるいは現実を徹底的に否定=批判した先に「あるべき世界」や「もう一つの世界」を構築している、ということである。

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