TKWO――音楽とともにある人生♪ アルトサクソフォン・田中靖人さん Vol.1

ジャズミュージシャンを志していたのに

――ジャズを志したのですね。現在は、クラシックを吹奏楽に編曲した作品を演奏することも多い佼成ウインドのメンバーですが

それは、ある人との出会いが強く影響しています。

高校生の時は、吹奏楽雑誌を読んで、サクソフォンの勉強をしていました。雑誌の演奏アドバイスの欄に大室勇一先生の解説が書かれていました。コメントには、「質問がある人は手紙をください」と住所も記載されていたのです。大室先生は、吹奏楽部の顧問が勧めてくれた国立音大の講師も務めていました。はやる気持ちを抑えることができず、手紙は書かずに、自宅に電話をかけました。「サクソフォンを習いたいんです」と話すと、「じゃあ、とにかく一回来なさい」と思いもかけず、受け入れてくださいました。

僕は当時、ジャズ サクソフォン奏者の渡辺貞夫さんが大好きで、いつも渡辺さんが書かれたメソッドを練習していました。大室先生のレッスンの日、僕はその教本を持ち、「JAZZ」と書かれたTシャツを着て、先生の自宅を訪ねました。

ところが、大室先生はジャズが大嫌いな人でした。「ジャズなんかやるんだったら音大なんて行く必要はない」と言われたのです。ですが、その日の帰り、クラシカル サクソフォンの演奏が録音されたカセットテープをくださいました。

そのカセットテープには、サクソフォンの、今まで聴いたことがない音色があふれていました。弦楽器のような美しい音を出すクラシカル サクソフォン、それに衝撃を受けたのです。だからといってもまだジャズが好きで、「これを勉強するのも、ジャズミュージシャンになった時に役に立つかもしれない」と考え、先生のもとでクラシカル サクソフォンを勉強することにしました。

これが今の僕につながっています。大室先生は僕を導いてくださった恩師なんです。

プロフィル

たなか・やすと 1964年、和歌山市生まれ。TKWOコンサートマスター。第4回日本管打楽器コンクール第1位を受賞。国立音楽大学卒業後、1989年にTKWOに入団し、ソロ、サクソフォン4重奏団「トルヴェール・クヮルテット」でも活動している。また、現在は昭和音楽大学、愛知県立芸術大学などで講師を務めている。