「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(17) 番外編1 文・黒古一夫(文芸評論家)

画・吉永 昌生

自立の道をどう探るか
物語はやがて、大きな共同体となった「さくら丸」の今後を巡って展開する。被災者の「救済」を忘れてしまったような「日本」から離脱して、「自立した共同体=新しい国家」として、このまま自給自足の船上生活を続けようとする「自由航路主義者」と、「土」から離れた生活には無理があるのではないかと、「さくら丸」をどこかに着岸させて、そこを拠点に新たに自給自足を基にした生活を行おうとする「沿岸主義者」に二分されていく。最終的には、両者が別々の道に進むことになる。

このような物語から私たちが教えられるのは、大規模な自然災害であろうと小規模のそれであろうと、国家(権力)は決して被災者が納得するような「救済=援助」をしてくれるわけではなく、被災者は自発的な援助者(ボランティア)と共に何とか「自立」の道を探るしかないのではないか、ということである。つまり、東日本大震災のような大きな災害にあった時、被災者は果たして「国家」や「行政」に頼って「再生」できるのかということ。そして被災地や被災者の「自立」はどのようにしたら可能か、といった何とも「重い」問いを、私たちは突き付けられているということである。

その意味で、この長編は東日本大震災が「まだ終わっていない」ことを、私たちにもう一度思い起こさせてくれる作品になっている。

プロフィル

くろこ・かずお 1945年、群馬県生まれ。法政大学大学院文学研究科博士課程修了後、筑波大学大学院教授を務める。現在、筑波大学名誉教授で、文芸作品の解説、論考、エッセー、書評の執筆を続ける。著書に『北村透谷論――天空への渇望』(冬樹社)、『原爆とことば――原民喜から林京子まで』(三一書房)、『作家はこのようにして生まれ、大きくなった――大江健三郎伝説』(河出書房新社)、『魂の救済を求めて――文学と宗教との共振』(佼成出版社)など多数。近著に『原発文学史・論――絶望的な「核(原発)」状況に抗して』がある。