「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(14) 文・黒古一夫(文芸評論家)

画・吉永 昌生

人や社会とのかかわりが問われる時代に

村上春樹は、阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件があった1995年に、心理学者の河合隼雄と対談し、『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』(96年)という形で公刊するが、その中で「オウム事件と阪神の大地震はコミットメント(人や社会とのかかわり)の問題」を考える契機になり、「どちらも日常的な想像力を超えた出来事」だったので、必死でその意味を探ることにした、と言っていた。『アンダーグラウンド』と『約束された場所で』の二つのノンフィクション作品が何故書かれなければならなかったのか、その理由がここには明らかにされていた。

そして、村上春樹の90年代後半に著された『アンダーグラウンド』などの著作は、文学(創作・表現行為)というものが「社会」や「時代」の在り様や出来事と深く関係しているということを、改めて私たちに教えてくれるものであった。(なお、奇しくもこの稿を執筆していた7月6日、ニュースは、死刑の確定していた松本智津夫=麻原彰晃=ら7人のオウム事件関係者の死刑が執行された、と報じた。)

プロフィル

くろこ・かずお 1945年、群馬県生まれ。法政大学大学院文学研究科博士課程修了後、筑波大学大学院教授を務める。現在、筑波大学名誉教授で、文芸作品の解説、論考、エッセー、書評の執筆を続ける。著書に『北村透谷論――天空への渇望』(冬樹社)、『原爆とことば――原民喜から林京子まで』(三一書房)、『作家はこのようにして生まれ、大きくなった――大江健三郎伝説』(河出書房新社)、『魂の救済を求めて――文学と宗教との共振』(佼成出版社)など多数。