「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(7) 文・黒古一夫(文芸評論家)
施政権返還前(占領下)の沖縄
私たちが忘れてならないのは、アジア太平洋戦争(第二次世界大戦)が終わって日本は「平和国家」として再出発したが、世界の各地では、大戦後のアメリカとソ連の対立による東西冷戦構造を反映した、さまざまな戦争が起こっていたということである。
朝鮮戦争、ベトナム戦争、数次にわたる中東戦争、イラン・イラク戦争、アフガニスタン紛争など数え上げていけばきりがない。1990年代には、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争など、東西冷戦の終結に伴って民族紛争も頻発した。多くの歴史家や思想家が「20世紀は戦争の世紀」と断じる所以(ゆえん)である。
中でも、朝鮮戦争とベトナム戦争では、日本が戦争(紛争)の当事者となったアメリカ軍の基地を数多く抱えていたことから、必然的に両戦争の兵站(へいたん)基地(後方基地)・出撃基地としての役割を果たすことになった。二つの戦争を受けて、日本は戦後復興を経て高度経済成長の成功という道を歩むことになるのだが、同時にそれは日本人の精神形成にさまざまな「影」を落とした。