「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(5) 文・黒古一夫(文芸評論家)

画・吉永 昌生

日本占領に起因する問題

それ故なのか、現在の濃密な日米関係を満喫しているように見える多くの日本人の歴史認識には、一つの特徴がある。太平洋戦争の敗戦直後(1945年9月2日)から1952(昭和27)年4月28日のサンフランシスコ講和条約締結までの6年半、アメリカ(軍)を中心とした連合軍によって、北は北海道から南は沖縄まで「占領」されていたという「事実」も――沖縄は1972年まで――、また抜け落ちているのではないか、と私には思えてならない。

言い方を換えれば、沖縄の基地問題や現在も日ロ間の重要懸案事項になっている北方領土問題も、実はこの連合軍による日本占領に起因しているということだ。さらに、この占領時代に朝鮮戦争(1950年6月~1953年7月)が起こり、その結果朝鮮半島が北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と韓国(大韓民国)とに「分断」されてしまったことなどを考えると、戦後史における連合国(軍)による「占領」という事態は大きな意味を持っていた、ということである。そして、戦後の文学者がこの連合国による「日本占領」について、どのように感じ考えていたか、そのことをもう一度振り返ることも大事である。

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