バチカンから見た世界(156) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

また、教皇は14日、バチカン広場での正午の祈りの席上、イスラエル、イラン間の報復攻撃に対する「憂慮と苦痛」を表明。「中東を、さらに大きな武力紛争の渦へと突き落とす危険性のある行為を停止するように」と警告した。「誰も他者(国)の存在を脅かしてはならない」と伝え、全ての国家が、「イスラエル人とパレスチナ人が隣接する2国家のうちで共存できるように支援してほしい」と訴えた。

そのために、「ガザでの停戦を成立させ、確固とした交渉の道を辿(たど)るように」と示し、「人道的危機に直面しているガザの人々に対する援助と、数カ月前に拉致された(イスラエル人の)人質の解放」を要求した。

国際社会(特に米国)から「中東での緊張緩和」が求められた一方、ユダヤ教極右勢力の支持を得るネタニヤフ政権の存在が、中東和平の大きな障害になりつつある。ユダヤ教原理主義勢力は、パレスチナ、ヨルダンを含む、旧約聖書に登場するユダヤ教神権国家の最大版図「大イスラエル」の建国を目指している。国際法の定める「2国家原則」を認めず、大イスラエルの興国を脅かす国家(イラン)との戦闘をも辞さないのだ。

国際世論の恐れる、中東での戦火拡大は、ユダヤ教極右政権とイスラーム・シーア派神権国家の闘争として、全域を巻き込む可能性を持っている。イスラエルのネタニヤフ首相が、ヘブライ語聖書の中にある「神がアマレク人の壊滅を命じられた」という説話を基に、ガザ地区での「ハマス壊滅作戦」を正当化した理由が、ここにある。

旧約聖書に登場するアマレク人は、イスラエルの民が奴隷とされていたエジプトを脱出し、神との約束の地に向かう途中のシナイ半島で、彼らを攻撃したことで「悪の象徴」と考えられた半遊牧民族だ。ネタニヤフ政権にとって、ハマスや、イスラエル国家の存在を認めず、初めてイスラエルを直接攻撃したイランは、アマレク人と重なって見えるのだろう。ガザ地区で展開されるイスラエル軍によるパレスチナ住民の大量虐殺や、病院、インフラ、学校、家屋などの破壊状況を見れば、パレスチナ民族をアマレク人と捉えられているとの疑念は拭い切れない。