弱小チームから常勝軍団へ~佼成学園高校アメリカンフットボール部「ロータス」クリスマスボウル3連覇の軌跡~(4) 文・相沢光一(スポーツライター)

1年時からの実践指導

一般的な高校では、1年生は相手との衝突に耐え得る体をつくるための基礎体力トレーニングに終始する。また、用具の準備や掃除といった雑用を担ったり、先輩のプレーを見学したりすることも多い。その中で、徐々に部活動に慣れていくわけだ。

ロータスの場合は新学期が始まってすぐに、1年生を練習に参加させるための2泊3日の合宿を行なう。ルールをはじめ、戦術やポジションの役割、練習の進め方などを教える、いわば部活のオリエンテーションだ。そして、その合宿を終えると、さっそく実戦を想定した練習を始めるのだ(2年、3年とは別グループだが)。

事故防止のため、タックルやブロックといったコンタクトプレーはタックルバックやハンドダミーなどの用具を使った練習を繰り返すことから始める。練習を積み重ね、当たり方に問題がないと判断できた者から対人でのコンタクト練習に移る。レベル差は考慮するものの、1年生も上級生と同じ内容の練習に参加させるのがロータスの特徴である。

ハンドダミーを使用し、安全に当たり方の技術を身に付ける

これらの練習は早期から必要なスキルを身に付けることにつながる。例えば、アメリカンフットボールでは、正確に仲間にパスを出すために、ボールにスパイラルといって回転をかけて投げるスキルが必要なのだが、初心者はうまく回転をかけられないことが多い。またタックルやブロックも、スキルがないと相手に跳ね返されてしまう。

1年時の早期から練習を始めることで、ボールに回転をかけて正確にパスできるようになり、タックルやブロックの際に相手に当たっていくポイントや、体重のかけ方などを体得でき、早くからアメリカンフットボールの本格的なプレーに臨めるようになる。日々、自分の成長が実感でき、部活が楽しくなっていくのだ。

プレーができるようになると肉体面のスキルだけでなく、戦術の面白さも分かってくる。最初の合宿では、本稿の第2回で紹介した“アサイメント”の基礎についても教わる。

アメリカンフットボールでは、オフェンス(攻撃チーム)がボールを前進させてエンドゾーンまで運び、タッチダウンを目指す。ディフェンス(防御チーム)はその前進を阻もうとする。単純なゲーム性に思えるが、横幅53.33ヤード(48.76メートル)ある広大なフィールドで、立ちふさがる相手にぶつかりながら、防御網をかいくぐってボールを前に運ぶのは容易なことではない。そこで、相手のギャップ(穴)を衝くことが重要になる。

オフェンスはディフェンスラインのギャップを衝こうとする。もし、かいくぐれそうなギャップが見つからなければ、相手をブロックして道を切り開くことになる。

対するディフェンスはギャップをつくらないように防御網を張りながらも、同時に、オフェンス陣のギャップを衝き、司令塔であるクオーターバック(QB)にプレッシャーをかけたり、ボールキャリアのランニングバック(RB)を止めたりする。つまり、ギャップの衝き合いが攻防の鍵を握るのだ。

そこで戦術として欠かせないのが、全員が自分に割り当てられた役割を同時に果たすアサイメントである。ここでは、最もベーシックな「Power」というプレーをもってアサイメントの具体例を紹介しよう。

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