気づきを楽しむ――タイの大地で深呼吸(27) 写真・文 浦崎雅代(翻訳家)

兵庫・西正寺でのトーク&ワークショップ

そうした私の期待以上に、訪れる先々での触れ合いは素晴らしく、出会った多くの方が、共に気づきを高める大切さを感じてくださった。どこへ行っても、「今、ここ」の出会いを大事にされ、必要なメッセージを過不足なく届け、相談事があればしっかりと耳を傾けられる両師の姿を、私は旅の間、何度も目にした。

ある場所で、スティサート師は自己紹介の時にこう述べられた。

「私は特別な家庭に生まれたわけではありません。ただ、幼い頃から心について興味があり、哲学や思想などの本をよく読んでいました。縁あってカムキエン・スワンノー師(師匠の名)のもとで修行を続け、法を伝えるお役目を頂いています。法を伝える立場に自分がなりたいと考えたことはなかったのですが、ある時、師匠が私にこのようにおっしゃったことがありました。『法を人様に伝えることを通して、自分自身に法を教えていきなさい』と。お役目を通して、自分自身を振り返っていきなさい、という師のお言葉をいつも胸にしながら、法をお伝えさせてもらっています」

私たちは、何かをよく知るようになると、他人に教えたくなってしまう。そして実際に教える立場に立つと、他人には教えても、自分自身に同時に教えるということを忘れてしまいがちだ。さらに、いつの間にか自分だけが知っていると思い込み、相手に教えてやるぞ! という気持ちになりかねない。知識や経験が豊富になればなるほど、誰もが陥りやすい思考の一つなのであろう。

他人に教えることを通して、自分自身に教えていく。このメッセージに込められたしやなやかな謙虚さを、私自身も日々、法を伝えるお役目の一人として身につけていきたいと思う。

プロフィル

うらさき・まさよ 翻訳家。1972年、沖縄県生まれ。東京工業大学大学院博士課程修了。大学在学中からタイ仏教や開発僧について研究し、その後タイのチュラロンコン大学に留学した。現在はタイ東北部ナコンラーチャシーマー県でタイ人の夫と息子の3人で生活している。note(https://note.mu/urasakimasayo)にて毎朝タイ仏教の説法を翻訳し発信している。