ミンダナオに吹く風(22) 敗戦後、日系人たちはジャングルへ逃れた 写真・文 松居友(ミンダナオ子ども図書館代表)

ミンダナオのジャングル

「幸いなことに姉妹は何とか生き延びて、敗戦後、日本に帰れたのですが、それ以後は生まれ故郷のミンダナオに帰ることはなかったそうです。70歳を過ぎてミンダナオ子ども図書館を知り、連絡してこられて、故郷の地を再び踏みしめたのです。そして、この資料館も訪れました。過去の資料の中に小学校の子どもたちの写真が載っているアルバムを見つけて、突然顔色が変わって写真を指して、『ここに、私と妹が写っている!』とおっしゃいました。なんと、集合写真の中に、子ども時代のご当人が写っていたのです。これがそうです」

私はそう言うと、アルバムの中の姉妹を指した。訪問者は絶句していた。

姉妹の話では、ジャングルへは日本軍と共に逃げたけれども、日本軍は現地の人たちよりも怖かった、とのことだった。現地では当時、先住民による密告を恐れた日本軍が穴を掘って先住民を生き埋めにした、という話も残っており、そのことを訪問者に伝えた。

それから私は、「そうしたわけで、現地の先住民と結婚していた日本人の一部は、家族を守るためにジャングルに逃げ込んで、自分が日本人であることを隠して今まで生きてきたのです。ミンダナオ子ども図書館の奨学生やスタッフにも、そうした日系人の子孫が交じっていますよ」と続けた。

これも、日本とミンダナオの歴史の一つだ。

プロフィル

まつい・とも 1953年、東京都生まれ。児童文学者。2003年、フィリピン・ミンダナオ島で、NGO「ミンダナオ子ども図書館」(MCL)を設立。読み語りの活動を中心に、小学校や保育所建設、医療支援、奨学金の付与などを行っている。第3回自由都市・堺 平和貢献賞「奨励賞」を受賞。ミンダナオに関する著書に『手をつなごうよ』(彩流社)、『サンパギータのくびかざり』(今人舎)などがある。近著は『サダムとせかいいち大きなワニ』(今人舎)。