バチカンから見た世界(67) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

ユダヤ人至上主義に進むイスラエル

大衆の欲望や不安をあおって権力を維持しようとする欧米のポピュリスト(大衆迎合主義者)たちは、「自国至上主義」を唱える。一方、米国のトランプ政権の支持基盤であり、白人至上主義的傾向の強い、キリスト教原理主義者からの支持を受けるイスラエルの右派の政治勢力は、「ユダヤ人至上主義」をうたい始めた。

イスラエル議会(クネセト)は7月19日、自国を「ユダヤ人の民族的郷土」と定義し、ユダヤ人のみが国家の自決権を有するとした「ユダヤ人国家法案」を62対55の賛成多数で可決した。「ユダヤ人国家法」は、極右を含む右派の宗教的政治勢力が強く望んでいたもので、憲法と同等の「基本法」の位置付けとされる。パレスチナ自治政府は将来の首都として東エルサレムを想定しているが、その地も含む「統一エルサレム」がイスラエルの首都であるとし、ヘブライ語を「国語」と定めた一方、アラブ語を公用語から「特別な地位」に格下げした。さらに、ユダヤ人入植地の拡大は「国益」であるとして奨励し、世界各地に暮らすユダヤ人のイスラエルへの移住を呼び掛けている。

当初、法案には「ユダヤ人のみの共同体創設の可能性」や「関連の判例が無い場合、ユダヤ教の典礼規則が他の法律よりも優先される」といった内容の条文が含まれていたが、レウベン・リブリン大統領やアビハイ・マンデルブリト司法長官らの反対を受け、削除された。ユダヤ人国家法がイスラエルの政界と世論を真っ二つに割った――議会での投票結果から、そうした指摘がなされている。

右派連立政権を率いるネタニヤフ首相は、「われわれの存在の基本原則を制定したもので、イスラエルとシオン主義の歴史にとって決定的な瞬間」と評価した。これに対して、中道左派と少数派のアラブ系の議員たちは、「ユダヤ民族の優越性を主張し、ユダヤ人以外の人々を二級市民にする」法律として、激しく抗議。日刊紙「ハアレツ」は、同法が1948年のイスラエル独立宣言に記されている(国民の)平等を否定し、イスラエルをアパルトヘイト(人種隔離政策)の国家にすると反対の意を示した。