ミンダナオに吹く風(23) 先住民の村へ 写真・文 松居友(ミンダナオ子ども図書館代表)

先住民の村へ

カリナンからさらに山や深い谷を抜けて国道を行くと、深い谷を越えたあたりで車は脇道に入った。それまでのアスファルトの道とはまったく異なった、車一台通るのがやっとの山路だ。訪問者は、驚いた顔をして山々の風景を見ている。

「この山々の奥は、主に先住民のマノボ族やバゴボ族が住んでいる地域なんですよ」

私はハンドルを握りながら、訪問者に語り掛けた。四輪駆動車は、時にしぶきを上げて橋のない谷底を抜け、でこぼこの急な斜面を登っていくこと1時間あまり。車は突然、尾根に飛び出した。訪問者たちが驚いたのは、日本では考えられないような、へんぴな山奥にも、竹小屋の家が建ち並び、子どもたちが遊んだり、母親や年寄りたちが話し込んだりしていることだ。

「こんな山奥にも、人が住みついているとは驚きだねえ。いったい彼らは、どんな暮らしをしているのですか? こんなところじゃ収入もなく、お米も食べられないでしょうに」

山に住んでいるのが、先住民たちだということを伝えると、訪問者は私に尋ねた。

「ミンダナオの平地は広くて豊かなのに、先住民たちはなぜこんなへんぴな山奥に住んでいるんですか?」

「もともとミンダナオは、先住民たちの島で今でも14部族ほどいて、言葉が違っても平和に仲良く平地に暮らしていたんです(※1)。しかし、植民地時代から独立国家になった今に至るまで、先住民たちが住んでいた土地は所有者のない土地であると見なされて、島外移民や国際資本と結びついた有力者たちによって買い占められていったんです。時には追い出すために戦争が仕掛けられて、このような山岳地帯に移らざるを得なかったんです。食べ物といえば斜面に生えるカサバイモで、おかずは子どもたちが川でカエルやカニをとってきて食べたり、肉はイノシシかヘビかな」

「えっ! ヘビも食べるのですか?」

「ええ。私も食べますよ。ニシキヘビの蒲焼きはおいしいけれど」

「……!」

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