気づきを楽しむ――タイの大地で深呼吸(18) 写真・文 浦崎雅代(翻訳家)
洞窟に閉じ込められたサッカー少年たちに学ぶ――心の危機管理としての瞑想
今回は、まだ記憶に新しいこのテーマを扱いたい。6月末、タイ北部チェンライ県の少年サッカーチーム「ムーパー(タイ語でイノシシの意)」のメンバー12人とコーチ1人の計13人が行方不明になり、国立公園内の洞窟で発見されたニュースのことだ。チーム一行は洞窟探検に出掛けたが、洞内の川が増水して道が塞(ふさ)がれ、閉じ込められてしまったのである。
このニュースが流れると、タイでは多くの人が心配し、日ごとに報道が増えていった。国内だけでなく海外からも有名なダイバーが駆け付けて捜索に当たった。そして、13人が洞窟に入って9日目、彼らは英国人ダイバーらによって発見された。だが、救出は難航し、作業中にタイ海軍のダイバーが一人作業中に亡くなる悲劇も起きた。その後、7月10日、全員が無事に洞窟の外へと助け出された。多くの人の協力なしには成し遂げられないことであった。
この奇跡の救出劇は、私たちにさまざまな学びをもたらした。時に危険をもたらす自然の脅威への備え、最新の機械を使った情報収集と救助活動のマネジメント、助け出すための協力体制の整備、医療機関との連携やマスコミなどの情報の取り扱い方など多岐にわたる。実際、タイでは、彼らが救出された後、自然科学と危機管理の分野で、この出来事からの教訓を共有するシンポジウムが行われた。
この中で私が最も関心を寄せたのは、コーチが元僧侶で瞑想(めいそう)の経験があり、心を穏やかにする術を活用したということだ。閉じ込められている最中、子供たちは瞑想をしていたらしい。少年たちが洞窟の中で見つかった時の映像を見ると、身体的な疲労がにじんでいたものの、穏やかな表情をしており、発見されたことへの喜びを静かに感じているような印象を受けた。
コーチのエークさんは、25歳の若さながら沙弥(しゃみ=未成年の出家者)時代から8年間出家していたらしく、森や洞窟での瞑想体験もあり、心を整える術をしっかりと身につけていた。還俗(げんぞく)し、サッカーのコーチになっても、その技術の指導にとどまらず、子供たちの心を鍛えるために瞑想をしたり、時には洞窟に連れて行ったりしていたのだという。今回もほんの1時間ほど洞窟に入る予定だったが、その間に水かさが増し、道が塞がれてしまったそうだ。