利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(58) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)
美徳と強みを引き出す
もう一つ大事なのが、弱点を矯正することよりも、その子特有の美徳や人格的な強みを見いだし、それを伸ばしていくことだ。
やはり小学校1年生くらいまでには、遊びの仕方や関心の持ち方などを通じて、長所や得意なところが現れてくる。例えば、幼稚園児が紙で作る工作に長時間没頭して遊んでいたり、科学的な子供向け番組を熱心に見ていれば、その子は理系的な素質を持っている可能性が高い。それに気づけば、天性の資質が発芽するように、工作の材料や道具をあげてそれを補助するとか、そのような教室に連れて行くのが、本人特有の強みを開花させることにつながっていく。同様に、絵本やお絵描きが好きだったら文系的ないし芸術的な資質がありそうだから、それらの機会をなるべくつくり、運動やプールが大好きだったら公園や運動場、スイミングスクールなどに連れて行くのがよい。
その人に固有の美徳と人格的な強みを発見し、それを開花させていくことは、明るい感情の育成と並ぶ、ポジティブ心理学の主柱だ。このために、美徳(仁・義・礼・智・信・勇など)と強みのリストやそれを調べるための調査票も開発されている。こうしたものを活用して、わが子の長所を引き出すことができれば最善だろう。ポジティブ心理学の代表者であるマーティン・セリグマンは、子供の強みを伸ばすために、(1)子供が強みを示したら、どんなものでも誉(ほ)めてあげること(2)芽生えてきた特徴的な強みを、日常的な家庭の活動の中で発揮できるようにすること(その強みに名前を付けて認識する、など)を勧めている。
子供の資質に即した機会を作ってあげれば、好きなことができるから、その子は喜んで明るい気持ちになるに違いない。よって、強みを芽吹かせる育児法と明るい感情を育む育児法は相互に連動する。慈愛で幼児を包んで抱き育て、この二つの方法で好循環をつくっていけば、健全な心が育ち、人生の起点において何物にも代えがたい宝を贈ることになるのである。
プロフィル
こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。
利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割