利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(51) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

意味を見いだして社会的危機を乗り越える

コロナ禍によって通常の楽しみを味わえなくなっている日常において、意味や意義を再確認することが、私たちに希望を与えて健やかで幸せな生活を可能にしてくれる。リモートワークになっても、その仕事が人々や社会に役立っているという「働きがい」に改めて思いを馳(は)せるといいだろう。普段は当たり前に思っている仕事の意義が、逆に実感できるかもしれない。家族をはじめ周辺の人々との関係における「生きがい」を再確認することも大切だ。外で知人たちと会うことが難しくなっているので、家で過ごす時間が増えた人も多いだろう。普段はつい外部に注意が向かいがちな人も、この非日常的な時期には、特に家族との触れ合いを大事にして、夫婦でゆっくりと話したり、子供と遊んだりすることができる。それによって、身近な人々にとって自分がかけがえのない存在だということを再発見できるかもしれない。その人たちが自分の存在を喜んでくれるということは、まさしく自分自身の「生きがい」だろう。

もう一つの柱であるポジティブ感情とは、簡単に言えば、明るい気持ちのことだ。これを保つことは、感染や症状の悪化を回避するために有益だから、憂鬱(ゆううつ)になりやすい今こそ、意識的にこれに努めることが大事だ(第38回参照)。実は、人生の意味を感じ、希望や明るい気持ちを保つために、歴史的にもっとも重要な役割を果たしてきたのが、宗教だった。天命や天職という考え方は、神仏や天という超越的な観念に支えられてきたし、「信仰・希望・愛」(キリスト教)・「清明心」(神道)・「和顔愛語」(仏教)など、明るい心を説く宗教的な教えも数多い。これらを生かすことによって、社会的な危機の中でも、生きがいを再確認して明るい気持ちを保ち続けることができる。これこそが、私たちが個々人の努力によって、いま特に傾注すべき目標なのだ。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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