利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(51) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

生きがいや働きがい

この考え方はポジティブ心理学にも大きな影響を与えている。幸福や繁栄を研究しているこの新しい心理学では、代表的な創始者(マーティン・セリグマン)が、精神的に良い状態(ウェルビーイング)を「ポジティブな感情、没頭・没入、人間関係、意味、達成」という五つの要素(PERMA)によって測定しようという理論を提起した。その五本柱の一つが、人生の意味や意義であり、調査票による計測を通じて、意味や意義を感じている人の方が幸福感は高く、その認識は健康や仕事などに好影響を与えていることが明らかにされたのである。

仕事でも、お金や出世のために働いている人々に比べて、自分自身の天職だと考えて働いている人の方が、人生の満足感を高めて個人的・集団的な仕事をより良いものにすることが実証され、使命感や天職感が改めて注目されている。私自身が分析した調査でも、「公共的なやりがい」は調査項目群の中で、対象者の幸せにもっとも関わりが深い共通要素だった。日本語では、英語の「意味・意義(meaning)」に近い独特の概念として「生きがい」という言葉がある。要は、生きがいを感じることは、人を幸せに導く可能性を高めるのだ。最近は、海外の心理学者たちも「イキガイ」という言葉に言及することがある。

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