共生へ――現代に伝える神道のこころ(1) 写真・文 藤本頼生(國學院大學神道文化学部准教授)

人々がつながり、未来を生きる力を見いだす

今回、なぜこのような話から始めたのかと言えば、それは「私たち日本人の宗教観や信仰心、考えの由来、また神道が育む共生の智慧(ちえ)、神社が果たしている役割」についての寄稿を依頼された際、小生はまず、恩師である櫻井治男皇學館大学教授(現名誉教授)が述べていた「神道の持つ多面的な価値」という言葉を思い出したからである。

櫻井教授はその著書『神道の多面的価値―地域神社と宗教研究・福祉文化―』(皇學館大学出版部)の中で、神道は「古来からの民族信仰として、多面的な価値を内包している『聖なる箱』のような存在」であると説く。また、神道は日常性の宗教であり、その生活態度は「一つの教えや唯一の神、あるいは教祖から与えられる言葉を鍵としてそれを開くのではなく、すでに開けられている箱の奥に秘められた共有の価値を見出していく営み」であるとも述べている。

櫻井教授の説くように、確かに特定の教義も教典もない神道では、特別な宗教生活を行うわけではなく、一定の教義に基づいた倫理生活を実践するというわけでもない。むしろ神道の宗教的役割としては、お互いの生活を理解し、尊重し合いながら、平穏無事に、そして創造的に暮らしていこうとする「見えざる意識」に対して、意味づけと方向性を日常生活や神祭りの中で与えてくれるものでもある。このような恩師が教示してくれた神道についての理解の仕方は、まさに、今後の多様性を許容し合う社会の在り方、つまり多文化社会、共生社会と呼ばれる時代の上で、大切な考え方の一つとなると思い至ったのである。こうした考え方は、神社や神社で行われる祭りの中にも象徴されていると小生は受けとめている。

地域ごとに多種多彩な祭りがあり、その祭礼に参加する人々が、互いに神々の相対的価値を自身の心の中に感じながら、人々のつながりの大切さと未来を生きる活力の源泉を見いだし、今を有意義に生きていく糧としてきたことは、まさに日本人が長年かけて築き上げてきた知恵の源泉であるとも言える。

本連載では、こうした点も踏まえながら、現代社会における神道、神社の在り方とともに、神道の「こころ」を考えてみたい。
(写真は全て、筆者提供)

プロフィル

ふじもと・よりお 1974年、岡山県生まれ。國學院大學神道文化学部准教授。同大學大学院文学研究科神道学専攻博士課程後期修了。博士(神道学)。97年に神社本庁に奉職。皇學館大学文学部非常勤講師などを経て、2011年に國學院大學神道文化学部専任講師となり、14年より現職。世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)日本委員会平和研究所所員。主な著書に『神道と社会事業の近代史』(弘文堂)、『神社と神様がよ~くわかる本』(秀和システム)、『地域社会をつくる宗教』(編著、明石書店)、『よくわかる皇室制度』(神社新報社)、『鳥居大図鑑』(グラフィック社)、『明治維新と天皇・神社』(錦正社)など。

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