利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(66) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

旧統一教会による政界汚染:元首相銃撃事件と内閣改造

前回(第65回)に書いたように、参議院選挙で与党が大勝した結果はすぐに表れてきた。新型コロナウイルスの感染状況が世界最多となり、各地で医療崩壊が起きつつある。にもかかわらず、政府は何もしない。無為無策そのものだ。

他方で急きょ行ったのは内閣改造(8月10日)であり、急いだ理由は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題である。安倍晋三元首相の銃撃事件の動機は、犯人の旧統一教会への恨みであることが明らかになった。母親と旧統一教会との献金トラブルによって一家が悲惨な状況に陥り、当初は旧統一教会の韓国人トップを狙ったが、日本における最大の「シンパ」たる安倍元首相に標的を切り替えたというのである。

各種報道により、安倍元首相と旧統一教会との間には実際に祖父・岸信介元首相以来のつながりがあり、特に第1次政権の後で政権を再び獲得するために安倍元首相は旧統一教会との関係を深め、各種選挙において集票を依頼していたことが判明した。その効果もあって、長期政権の起点になった自民党総裁選(2012年)で逆転勝利したという可能性すらささやかれている。

世論の批判を受けて行った内閣改造では、旧統一教会との関係を「厳正に見直すことを言明した」人を任命したものの、8月15日時点で、新政権の大臣・副大臣・政務官54人のうち、20人がすでに何らかの関わりを持っていたことが判明した(朝日新聞デジタル=8月16日)。これらの事実は、旧統一教会が、いわば骨の髄まで日本政界を浸食してきたことを端的に示している。

政教分離との関連:政教癒着

この事件は「宗教と政治」という問題を改めて浮上させた。私は『神社と政治』(角川新書、2016年)を執筆して神社神道と日本政治の関係を思想的に論じたので、その角度から見てみよう。同書で記したように、憲法で明記されている政教分離とは、特定宗教と国家や政府が結びついてその宗教に便宜を図ることや他の宗教を抑圧することの禁止である。

この点で大きな問題となるのは、旧統一教会が自民党政治家を通じて圧力をかけて、「世界平和統一家庭連合」への名称の変更を承認させたのではないかという点だ。もともと霊感商法などの問題で旧統一教会には悪評が高まっていたので、文科省は名称変更を認めないでいたが、第2次安倍内閣時代に、安倍元首相と近い下村博文文部科学大臣のもとで急に認証された。

もしこの疑いが正しければ、政権や大臣が特定宗教の利益を図ったことになる。通常の政教分離は、政府と結合した特定宗教が他宗教より優越的な立場に立つことを禁止するが、改称の認証は不利な扱いをやめさせたということになるから、その正当性が問われることになる。さらに、もし癒着している宗教団体の利益を継続的に暗に図っていれば、政教分離に反する疑いが生じる。安倍派を中心に旧統一教会が選挙で自民党議員のために秘書やボランティアとなって活動や集票を行う代わりに、議員たちがその特定宗教の便宜を図っていたのなら、まさしく政教癒着と言わざるを得ない。

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