心の悠遠――現代社会と瞑想(6) 写真・文 松原正樹(臨済宗妙心寺派佛母寺住職)

ニューヨークの過疎化問題

ニューヨーク州北部は過疎化が深刻な問題になっている。人口が減り、第一次産業である農業が著しく減少し、畑が荒地となり、森に戻っていく。錆(さ)びだらけ、もしくは壊れた農機具がそのまま放置され、多くのサイロや納屋、馬や羊の飼育小屋は廃虚となっている。このような状況の中で、地域社会(コミュニティー)としての機能を失い、一定の生活水準を維持することが困難になっている。多くの人は「ニューヨーク」と耳にすると、マンハッタンを思い浮かべることと思うが、マンハッタンとは天地の差である。私たちが訪れた五つの町で、多くの人が「マンハッタンはニューヨークではない、ここ(ニューヨーク州北部)がニューヨークだ」と言い放った。

現在、過疎化が深刻な地域で、特筆すべきことが三つある。一つは、経済的に困難な所には「強いアメリカ」を旗印に掲げるトランプ大統領の支持者が多いということである。多くの家の前にアメリカの国旗が掲げられていて、これは国への敬意というよりはむしろ、トランプ大統領へのナショナリズムを表していた。二つ目は、若者による小規模農業経営の運動が近年、少しずつではあるが増加しているということである。若者たちは近郊の町から農村部へ移り住み、もしくは通い、農業を営んでいる。ただ、このような農業形態だけでは生活することが困難なため、ほとんどは副業である。だが、彼らは食べ物に対する健康意識が高く、環境問題への意識も高い。過疎化にある学校では、給食はいわゆる健康的なものとは程遠い。そのため、近郊の小学校へより健康的な食べ物を供給するために、小規模農業経営をしている者たちもいた。

この過疎化問題について、もう一点面白いことは、このような土地の安い所をアーミッシュ(ペンシルベニア州などに住むプロテスタント教会の一派。移民当時の生活様式を保持し、農耕や牧畜によって自給自足生活をしている)が購入し、移住してきているということである。ニューヨーク州に関して言えば、アーミッシュの人口が2000年の5000人から2018年の1万9835人へと約20年間でおよそ4倍の人口増加率を示している。アーミッシュが荒地を次々と生産性のある畑に戻しているのである。彼らは私たちに、その生活や仕事についていろいろ話してくれた。「太陽が出ているうちは働いています。男は外で、女は庭と家の中で」と。家具を作る工場も拝見させて頂いた。全てが素朴で、自然と共存している生活そのままであった。さすがに、マイナス15度の吹雪の中で、外に洗濯物を干しているのを見て、乾くのかな、と思ったが。

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