それでいいんだよ わたしも、あなたも(11) 文・小倉広(経営コンサルタント)

あんたも好きねぇ

「あんたも好きねぇ」

昭和のテレビ番組「8時だよ! 全員集合」で子供たちを熱狂させた、加藤茶の必殺ギャグです。アドラー心理学を学んでからの僕は、誰を見てもこう思うのです。

あんたも好きねぇ、と。

人とは違う突飛(とっぴ)な服装の人。肩をいからせて不良然と歩く人。聞かれてもいないのに知識をひけらかして話す人。「あんたも好きねぇ」。人から認められて、社会に居場所をつくりたいんだね、と。

悲しみに暮れ、不幸や不運を延々と嘆く人。いかに会社がひどくて上司が身勝手かを愚痴る人。仕事が忙しくて眠る暇がないと嘆く人。「 あんたも好きねぇ」。 同情を集めたり、悲劇の主人公になることで、社会に居場所をつくりたいんだね、と。

自分の意見を言わないで、他者に合わせてニコニコといい人を演じている人。家族や恋人にひどい目に遭わされながらも、この人は私がいないと何もできないから、と自分で自分を縛り付けている人。いつも友達や家族の顔色をうかがって、相手の機嫌が悪くならないように迎合して服従している人。「あんたも好きねぇ」。自分を殺して、相手を喜ばせることで、社会に居場所をつくりたいんだね、と。

みんな、みんな、それに気がついてない。自分が、“好きモノ”であることに気がついてない。「私は選んでなんかない! 好き好んでやっているんじゃない!」。皆さん、そうおっしゃいます。

「だって仕方ないじゃない! どうしようもないんだから!」。そう思っています。

「でも、でも」。そう言いながら、ホントは自分でその道を選んでいるのです。 だから、みんな、みんな、「あんたも好きねぇ」なのです。

では、その世界から抜け出すにはどうすればいいのでしょうか。アドラーは、自分を知ることだ、と言っています。自分を知らずに、仕方なくやらされている、と思っているうちは抜け出せません。だって、自分はひどい環境、悪いあの人の被害者なのですから。他者を変えることはできません。

だから、仕方ないじゃないか! と嘆くより他にやりようはないと思い込んでいるのです。そうではなく、たとえ自分で望んでいない結果だとしても、それはすべて無意識のうちに自分で選んでいるのだ、と気づけたならば……。実は他にもいくらでも選択肢はあり、それを選んだとしても、大した問題は起きないのだと気づけたとしたら……。そうすれば、僕たちには選択の自由が生まれます。これまでと同じやり方を選ぶのか。これまでと違う方法を選ぶのか――それを選ぶことができるようになるのです。

いや、そうではない。選択を突きつけられる。いやが応でも選択せざるを得なくなる。すると、変化が生まれます。でも、変わらなくてもいいのです。だって、好きでやっているのですから。

だから、僕は、そんな“好きモノ”の人たちを見ていると、不自由そうだな、とは思うものの「変わればいいのに……」とは思いません。

その代わりに「あんたも好きねぇ」と思うのです。

プロフィル

おぐら・ひろし 小倉広事務所代表取締役。経営コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラーであり、現在、一般社団法人「人間塾」塾長も務める。青山学院大学卒業後、リクルートに入社し、その後、ソースネクスト常務などを経て現職。コンサルタントとしての長年の経験を基に、「コンセンサスビルディング」の技術を確立した。また、悩み深きビジネスパーソンを支えるメッセージをさまざまなメディアを通じて発信し続けている。『33歳からのルール』(明日香出版社)、『比べない生き方』(KKベストセラーズ)など多くの著書があり、近著に『アルフレッド・アドラー 一瞬で自分が変わる 100の言葉』(ダイヤモンド社)。