それでいいんだよ わたしも、あなたも(12)最終回 文・小倉広(経営コンサルタント)

本当に変わりたければ、変わるな

僕が勉強を続けているゲシュタルト療法の創始者、精神科医のフレデリック・パールズは次のような言葉を遺(のこ)しています。

「あなたが本当に変化したければ、変化しないことである」

なんとも哲学的な言葉です。

僕はこの言葉を聞いた時にあることを思い出しました。それは、僕が自分の発達障害ADHD(注意欠陥・多動性障害)への向き合い方を大きく変化させた体験です。

それこそまさに「変化しない」と決めた時に、本当の変化が訪れた、という体験だったのです。

従来の僕は、自分が注意欠陥であり、多動、衝動的な行動をすることに対して、常にダメ出しをしていました。そして、注意深くあろう、落ち着いた穏やかな人間になろうと努力を重ねました。つまり「変化しよう」としていたのです。

しかし、心理学を学ぶうちに短所と長所はコインの裏表であることに気づきました。例えば衝動性という短所の裏には、行動がはやい、という長所もあったのです。同様に注意欠陥という短所の裏には集中力や思慮深さという長所がある。そして、短所をなくすと、それらの長所までなくなってしまうことに気づいたのです。

「そんな僕は僕じゃない!」

僕は短所をなくす、という努力をやめることにしました。マイナスを「なくす」方法を探すのではなく、マイナスを「活かす」方法を探すように頭を切り替えたのです。

例えば、以前から僕は思いついたことをすぐに行動に移し、誰もやっていないことをグイグイと前に進める力を持ち、発揮していました。しかし、そういった長所を持っている半面、飽きっぽく継続が苦手でした。そして、すぐにまた、新しいことに目移りしていたのです。

しかし、それを「なくす」のではなく「活かす」というふうに頭を切り替えた途端、それは長所になったのです。

「飽きっぽくていいじゃないか」「すぐに次の関心が生まれることはいいことじゃないか」「継続は、僕以外の得意な人に任せればいいじゃないか」「そうすれば継続が得意な人に活躍のチャンスを与えることができるに違いない」「無理に、始めることと継続することの両方をする必要はない」

このように、一見短所にしか見えない自分を丸ごと肯定し、受け入れ、むしろ積極的に長所として活用しようとした時に、問題はすべて解決したのです。

短所を「なくそう」とするから、問題が解決しない。短所を「活かそう」とすると、問題が解決する。

「変わろう」とするから、変われない。「変わらない」と決意したら、変われる。

そうなのです。

「それでいいんだよ。わたしも、あなたも」

いちばん大切なことは、ありのまま、そのままの自分を受け入れ、認めることだったのです。

*本コラムをもって全12回の連載「小倉広の“それでいいんだよ わたしも、あなたも”」を終了させて頂きます。ご愛読ありがとうございました。

プロフィル

おぐら・ひろし 小倉広事務所代表取締役。経営コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラーであり、現在、一般社団法人「人間塾」塾長も務める。青山学院大学卒業後、リクルートに入社し、その後、ソースネクスト常務などを経て現職。コンサルタントとしての長年の経験を基に、「コンセンサスビルディング」の技術を確立した。また、悩み深きビジネスパーソンを支えるメッセージをさまざまなメディアを通じて発信し続けている。『33歳からのルール』(明日香出版社)、『比べない生き方』(KKベストセラーズ)など多くの著書があり、近著に『アルフレッド・アドラー 一瞬で自分が変わる 100の言葉』(ダイヤモンド社)。