それでいいんだよ わたしも、あなたも(7) 文・小倉広(経営コンサルタント)

生きている それだけであなたには価値がある

本コラムの読者の皆さんは、いわゆる「頑張り屋さん」が多いのではないでしょうか。かくいう私も、これまでずっと「頑張り屋さん」を続けてきました。近年は、だいぶ肩の荷が下りて、頑張らなくてもいい、と思えるようになってきましたが。

頑張り屋さんの多くは、ネガティブエンジンで頑張ります。「頑張って成績を上げないと私には価値がない」という恐れが元にあって、そこから頑張るのがネガティブエンジン。そして、その心の底にあるのは「頑張らない私には価値がない」という無価値感です。

一方で結果を出しているにもかかわらず、あまり頑張っている感じがしない人もいます。楽しみながら体の力を抜いてうまくいっている人は、間違いなくポジティブエンジンで仕事を楽しんでいるのです。そんな人の心の底にあるのは「頑張らなくたって、私には価値がある」「ただ生きているだけで私には価値がある」と、自分の「存在価値」を認めているのが共通点です。

恐れから頑張り続けるネガティブエンジンの人の多くは、子供の頃に親から「頑張っていい点を取った時にだけ褒められた」記憶を持っているといわれています。記憶が自らを縛り、「頑張っていい点を取れば私には価値がある。しかし、頑張らなくていい点を取らなかった私は価値がない」と、すべてを「機能価値」で捉えるようになってきたのでしょう。その人は、頑張らなくても、生きているだけでも価値がある。存在価値がある、ということになかなか気がつかないのです。

これに対して、ポジティブエンジンで肩の力を抜いたまま楽しんで物事を成し遂げていく人の多くは、子供の頃に「成績が良かろうが、悪かろうが」「成功しようが失敗しようが」「あなたは素晴らしい!」と存在価値を認められて育ってきているケースが多いようです。

「生まれてきてくれてありがとう」「あなたがいるだけでお母さん(お父さん)は幸せだよ」と、機能価値ではなく存在価値を認めてもらうことで、自分で自分の存在価値を認められるようになる。だからこそ、ゆとりを持って、楽しみながら仕事に取り組み、楽々と機能価値までも発揮できるようになる。すでに存在価値があるのだからと、ゆとりをもって取り組むからこそ、実力を発揮できる。失敗を恐れず、チャレンジすることもできる。まさに、ポジティブエンジンを好回転させていけるようになるわけです。

つまり、逆説的ではありますが、楽に安定して機能価値を発揮するためには、自らがすでに持っている存在価値に気づくことが重要です。そうでなければ、死に物狂いでネガティブエンジンを回し続ける人生になるでしょう。それでは長続きしません。燃え尽きてしまうに違いないからです。

ただ、そうした壁に直面した時はチャンスでもあります。自分を見つめ直すからです。そして、気づくのです。私たちは誰もが、「生きているだけで価値がある」「機能価値を発揮しなくても存在価値がある」と。それを認めることができたなら、ポジティブエンジンが回り出し、私たちは肩の力を抜いて、ごく自然に機能価値までも発揮するでしょう。今の自分を否定せず、自らが自身を愛する、尊ぶ。幸せのループが回り出すのです。

プロフィル

おぐら・ひろし 小倉広事務所代表取締役。経営コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラーであり、現在、一般社団法人「人間塾」塾長も務める。青山学院大学卒業後、リクルートに入社し、その後、ソースネクスト常務などを経て現職。コンサルタントとしての長年の経験を基に、「コンセンサスビルディング」の技術を確立した。また、悩み深きビジネスパーソンを支えるメッセージをさまざまなメディアを通じて発信し続けている。『33歳からのルール』(明日香出版社)、『比べない生き方』(KKベストセラーズ)など多くの著書があり、近著に『アルフレッド・アドラー 一瞬で自分が変わる 100の言葉』(ダイヤモンド社)。