『利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割』(19) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

明治維新をどう見てどう活かすか

「ちょうど今晩のNHK大河ドラマ『西郷どん』(のテーマ)は『薩長同盟』だ。しっかり薩長で力を合わせ、新たな時代を切り開いていきたい」

安倍首相は鹿児島でこう述べて、自民党総裁選の出馬表明を行った(8月26日)。総裁選のために首相に協力した議員の選挙区・鹿児島と自らの出身地・山口との「薩長」の絆を演出したという。

薩長同盟というにはスケールが小さ過ぎる気もするが、「日本維新の会」のように、明治維新は今の政治でしばしば援用されている。近代日本を切り開いた最大の歴史的変革だからだ。「西郷どん」のほか、土佐出身の坂本龍馬、長州の吉田松陰、木戸孝允といったように、群星をなす英雄たちの物語があり、時代が閉塞(へいそく)感に覆われるときに、人々はそこに思いを馳(は)せることによって夢とロマンをかき立てられる。

今年は明治元年から150年だから、政府は「明治以降の歩みを次世代に遺(のこ)すことや、明治の精神に学び、日本の強みを再認識する」ために「明治150年」記念事業を大々的に推進している。その政治的意図について批判もなされているが、私も明治維新に目を向けることは有意義だと思う。大事なのはそれをどのように見るかという歴史観だ。

明治維新は何を成し遂げたのか

明治維新は徳川幕府を打倒して開国し、近代政治の礎を築いた。徳川時代には士農工商という身分制があって、その頂点に幕府が君臨していた。封建制というが、どんなに優れた人でも生まれつきの身分が低ければ、その中で生きていくしかなかった。幕府を批判したり抵抗したりすれば、弾圧されて殺されることもしばしばあった。要するに、自由がなかったし、不平等な社会だったのだ。

これに対して下級武士たちが志を持って立ち上がった。その政治的なシンボルとなったのが、天皇だ。さまざまなドラマを経て江戸城が引き渡され、王政復古の大号令が出された。これは、天皇が自ら政治を行った古代の政治に戻るという意味だから、天皇制を重視する右翼は明治維新を美化することが多い。

明治政府は身分制を廃止し、自由の実現に大きな役割を果たした。けれども、実際には薩摩や長州の出身者が政治的な権力を握ったので、「薩長藩閥政府」と呼ばれた。その代表者たちで政治を行っていたのだから、民主主義ではなかった。龍馬の出身地だった土佐ですら排除されていたから、土佐からは中江兆民をはじめとする思想家が現れて自由民権運動が始まり、板垣退助のもとで自由党という政党が誕生した。小さな中津藩出身の福沢諭吉が文明開化を進展させる思想を書いて、学問や政治的な自立・議会制の意義を訴えた。こういった民主主義的な思想と運動の成果として、議会が開設されたのだ。

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