新・仏典物語――釈尊の弟子たち(2)

ごちそうは誰のもの?

釈尊が王舎城(おうしゃじょう)の郊外の竹林精舎(ちくりんしょうじゃ)にいらしたときのことです。一人のバラモン教の僧侶が、血相を変えて怒鳴りこんできました。

「こら、ゴータマよ、汝(なんじ)はワシの身内の者を出家させたというではないか。ワシたちバラモン教徒は、先祖代々れっきとした教えを信じてきたのだ。おまえのように昨日、今日始めた教えとは訳が違うのだ。早く、ワシの親族を返さんかい!」※

釈尊は罵詈雑言(ばりぞうごん)の限りをつくすバラモンの言葉を黙って聞いていましたが、怒りが少し鎮まったところで、こう言われました。

「バラモンよ。汝の家にも、たまにはお客さんが訪ねてくることがあろうか?」

「もちろんだ、ゴータマよ」

「バラモンよ、そんなときには、食事をごちそうすることもあるであろうか?」

「当たり前ではないか。ゴータマよ」

「そうか。では尋ねるが、もし、お客さんがその食事をまったく食べなかったとしたら、そのごちそうは誰のものとなるのであろうか?」

「それは、再び私のものとなるであろう」

釈尊はバラモンの返事を聞くと、静かに語り始めました。

「汝は、今日、私の前にたくさんの悪口を並び立てたが、私はそれを一切、頂かない。だから、それはまた、汝が持って帰るよりほかはあるまい。バラモンよ、もし汝の罵詈雑言に対して私が言葉を返したなら、それは主と客がともに食事をしたことになろう。だが、私はそのごちそうを頂かない」

そして、こう続けられました。

「怒れる者に怒り返すは、悪しきことと知らねばならぬ。怒れる者に怒りを返さぬ者は、二つの勝利を得る。他人の怒れるを知りて、正しい念をもって己を鎮める者は、よく己に克つとともに、他人にも勝てるのである」

バラモンはやがて釈尊のもとで出家し、その後、修行を重ねて阿羅漢(あらかん)の境地に達したということです。

(『雑阿含経』より)

※「ゴータマ」は釈尊のこと。また、本シリーズでは、人名や地名は一般的に知られている表記を使用するため、パーリ語とサンスクリット語を併用しています