新・仏典物語――釈尊の弟子たち(27)
生と死とIII 悲しみは胸に秘めよ
火柱が天に噴き上がりました。高く積まれた香木の上に安置された遺骸も、一瞬にして炎に包まれました。見守っていた人々は息をのみ、時間が凍りついてしまったようでした。時折、響く木の爆(は)ぜる音が、周囲の空気を震わせました。師匠の体を焼き尽くす炎を、チュンダは黙って見つめていました。
釈尊の高弟であるサーリプッタ(舎利弗=しゃりほつ)が、故郷で生涯を閉じたのです。盛大な葬儀になりました。近隣の村からも人々が駆けつけ、国王も参列したからです。慌ただしい葬儀が終わっても、チュンダにはなさねばならないことが残っていました。サーリプッタの死を釈尊に報告することでした。旅装を整えると、チュンダは、師の遺骨と鉢と衣を携え、釈尊の元に急ぎました。
七日後、チュンダは精舎で釈尊にまみえ、葬儀の模様を報告しました。「国王も村人に交じり花を手向けてくださいました。盛大というよりも心が和む葬儀でございました。これも、師のお人柄でございましょう」。
釈尊の口元に笑みが浮かびました。「そうであったか。それよりも、そなたに看(み)とられ、サーリプッタも喜んでおろう」「七歳の時から一緒に暮らしてまいりました。十年になります。息子のようにかわいがって頂き、多くのものを授けてくださいました。師は確かに亡くなりましたが、しかし、生きています。この私が師のように生きていきますれば……」。チュンダの眼に光るものがあふれていました。同席していたアーナンダ(阿難)も手で目頭を押さえていました。
「お釈迦さま。モッガラーナ(目連)さまもサーリプッタさまも他界されてしまいました。寄る辺を二つ、私どもは失ってしまいました」。アーナンダは声を詰まらせました。
「そのようなことを申すとチュンダに笑われてしまうぞ、アーナンダ。おまえも、モッガラーナやサーリプッタの願いを胸に、自分自身をつくっていけばよい。人を頼るのではなく、自分が人の依りどころになる。それが故人への一番の弔いではないのか」。釈尊の口調は淡々としていましたが、まなざしは遠くを見つめているようでした。
(賢愚経より)
※本シリーズでは、人名や地名は一般的に知られている表記を使用するため、パーリ語とサンスクリット語を併用しています
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