新・仏典物語――釈尊の弟子たち(11)

かくのごとく、われ聞けり

五百人の僧を引き連れマハーカッサパ(摩訶迦葉=まかかしょう)は、クシナーラー(クシナガラ)に向かっていました。先を行く釈尊と合流するためです。その途中、釈尊がクシナーラーで入滅したことを知らされました。その場は騒然となりました。カッサパは僧たちを励ましクシナーラーに急ぎました。

クシナーラーで釈尊の葬儀を執り行った後、カッサパは長老たちに呼び掛けました。

「世尊が入滅された今、世尊がお説きになった教えを誤りなく受け継ぎ、正しい教説を守り伝えていくために、私たちは世尊の教えを整理し、確認し合わなければなりません」

カッサパの口調には、厳しいものがありました。釈尊が亡くなってまもないというのに、師の教えを曲解する者がすでにでてきていたからです。

長老たちの賛同を得、カッサパは結集(けつじゅう)に出席する者・四百九十九人を選びだしました。「これに、アーナンダ(阿難)を加えてはどうか?」。長老たちの提案にカッサパは難色を示しました。アーナンダは釈尊に近侍し、釈尊の教法を一番多く耳にしていましたが、まだ悟りを得ていなかったためです。しかし、カッサパはその提案を受け入れました。結集が行われる日までに、アーナンダが聖なる境地に達することを期待したからです。

結集の日を明日にひかえ、アーナンダはまだ悩んでいました。そして、もう一度、自分の心を厳しく見つめなおしました。釈尊を敬慕する気持ちはだれにも負けない。しかし、その敬愛の念が自分の心を縛りあげているのではないか。そのことがややもすると釈尊に依存し、修行者としても、人間としてもひとり立ちすることを妨げていたのではないか。そのことに気づき、自分自身と正面から向き合った時、釈尊がこれまで説いてきた教えの真意をアーナンダは一つ一つ把握することができたのでした。

結集の日、集まった者たちのなかにアーナンダの澄んだ表情を見つけたカッサパは、ためらうことなく長老たちに問いかけました。

「諸友、もし可ならば、われ、アーナンダに法を問わん」

いつ、どこで、だれに対し、釈尊はどのような教えを説いたのか。カッサパの問いに、アーナンダは静かに語りだしました。「かくのごとく、われ聞けり。その時、世尊は・・・・・・」。

(四分律より)

※本シリーズでは、人名や地名は一般的に知られている表記を使用するため、パーリ語とサンスクリット語を併用しています

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