新・仏典物語――釈尊の弟子たち(5)

暁の空に、星はきらめいて

腫れた足の皮膚は破れ、血がにじみ、身にまとった黄色の衣は土ぼこりと汗にまみれていました。頬はこけ、憔悴(しょうすい)しきったその老女の姿は、遠い道のりを歩き続けてきたことを物語っていました。

頭髪を剃(そ)り、目には苦悶(くもん)の色が現れていました。老女はサーヴァッティーにある精舎(しょうじゃ)に釈尊を訪ねてきたのです。

精舎から出てきた釈尊の侍者・アーナンダは老女を見て驚きました。釈尊の養母・マハーパジャーパティーだったからです。

アーナンダに声をかけられたマハーパジャーパティーの目からひと筋の涙がこぼれ落ちました。そして、夫のスッドーダナ王が亡くなった後、カピラヴァットゥで出家することを釈尊に申し出たが許されず、それでもあきらめきれないのでカピラヴァットゥからこの精舎まで歩いてきたことを告げました。

彼女の話を聞き、アーナンダは釈尊のもとへ赴き、マハーパジャーパティーの願いを聞きとどけてくれるよう三たび懇請しました。

しかし、釈尊は三度ともその請いをしりぞけました。女性が出家し修行を続けることの困難さを慮(おもんぱか)ったからでした。

アーナンダはさらに問いかけました。

「女性が、教えに従い修行を積んでも悟りを得ることはできないのでしょうか?」

「そうではない、アーナンダよ。悟りを得ることはできる」

その言葉にアーナンダの胸は躍りました。

「それならば、どうかマハーパジャーパティーの願いをかなえてください。彼女は、世尊の母君(マーヤー夫人。釈尊を産んだ七日後に亡くなる)に代わり、世尊に乳を与えられ育ててくださった大切な方ですから」

ついに釈尊はマハーパジャーパティーの出家を許されました。彼女は釈尊の弟子の中で一番最初の尼僧になったのです。

百二十歳まで生きた彼女は、後進の尼僧たちの面倒をよくみ、敬愛されました。

マハーパジャーパティーが亡くなった、その明け方、空にはまだ、たくさんの星がきらめき輝いていました。
(律蔵・小品から)

※本シリーズでは、人名や地名は一般的に知られている表記を使用するため、パーリ語とサンスクリット語を併用しています