笑トレで元気に――健康と幸せを呼ぶ“心の筋トレ”(3) 文・日本笑いヨガ協会代表 高田佳子 (動画あり)
イラスト/中村晃子
インドにはもともと、瞑想法(めいそうほう)の一つとして「笑う・泣く・沈黙する」という行がありました。笑うことや泣くことが沈黙することと同様に、精神に良い影響を与えるということが知られていたのです。
1995年、大都会ムンバイに住む往診専門の家庭医のDr.マダン・カタリアは、笑いは健康に良いという研究結果が世界中にあることを知り、「なぜ人々は笑っていないのか」と疑問に思いました。そしてある日、人々に笑う場所がないからだと気づき、朝の公園で「笑いクラブ」を始めようと思いました。
当時のインドでは、公衆の面前で大声で笑うことには抵抗があったようですが、それでも朝の散歩をする人たちに根気よく声掛けし、互いに面白い話を披露して思い切り笑い合いました。
最初の10日ほどは冗談話で一緒に笑えたものの、面白いジョークはあっという間に底をついてしまいました。人は何度も同じジョークでは笑えません。また、人をばかにするジョークや品のないジョークが出てくるようになり、楽しいだけの場ではなくなっていったのです。
そこで、Dr.カタリアはもう一度、笑いと健康の研究をひもとき、「特定の感情は、特定の動作を引き出す」「人間の脳は作り笑いと本物の笑いの区別がつかない」という記述を見つけたのです。翌朝からは、面白い話を封印し、“笑う”表情や声を出すことに重きを置くようにしました。
「ホッホッ、ハハハ」の掛け声と手拍子、そして「ベリーグッド、ベリーグッド」と言いながら手をたたき、「イェーイ!」と両手を大空に向かって伸ばす動作を行いながら、さまざまな笑いの体操を繰り返す運動を、「笑いヨガ」と名付けました。言葉に頼る笑いではなく、ポジティブな動作によって笑う、それが笑いヨガです。
笑いヨガはたったの4年間でインド国内にすごい勢いで広がりました。99年からは、世界中で行われるようになり、今では100カ国以上に広がっています。
『型は破る? それとも守る?』
笑いヨガが世界中に普及したのは、今のストレス社会が笑いを求めていたからかもしれません。グローバル社会には、言葉を使わないコミュニケーションが必要だったとも考えられます。私は、シンプルな型があったことが一番大きな理由だと思います。笑いには、上手も下手もなく、型通りにやると、みんなで一緒にノリノリで笑えて、だんだん楽しくなります。日本の阿波踊りやブラジルのサンバ、インドネシアのケチャックのようにみんなで同じ動作を繰り返して一体感を得ることができます。また、ラジオ体操のように決まった運動の型があると、やりやすいのです。
笑いヨガは、公園で集まって笑い合ったり、ジョークやユーモアを使わずに笑ったりと、型破りな部分がある一方、リーダーの合図でみんなが一緒に笑い始め、「ホッホッ、ハハハ」の掛け声と手拍子で笑い終わるという型があります。
私は、笑いヨガが持つ型を大切にしつつ、笑いをトレーニングと考えて「笑トレ」を考案しました。体の動かし方に、老化防止や筋トレなど元気になる要素をたくさん取り入れ、運動が苦手な人も自然に体を動かせる要素を盛り込んでいます。無理に笑わなくても、体と心の変化がたくさん起きるよう、工夫しています。
だんだんと寒さを感じるようになってきた今月は、「空手笑い」と「出る杭(くい)を抜く笑い」の二つを紹介します。空手笑いは、片方の腕をまっすぐ前に出し、手のひらは下に向けます。もう一方の腕は肘を引いて脇を締め、手の甲が下になるように拳を軽く握ってください。その状態から前に出した腕と引いた腕が同じ形になるように左右の腕を入れ替えながら、「ホッホッハッハ、ハハハハ」で動かします。
出る杭を抜く笑いは、片方の手を上げ、反対の手で引っ張って抜く動作をしながら「ハハハハハ」。角度を変えて心地良く感じるポイントを探してやってみてください。
型はあるけど、型通りでなくていいのです。笑いながら背中や脇腹をストレッチし、気持ち良さを味わってください。
プロフィル
たかだ・よしこ 兵庫・神戸市生まれ。2009年にインドで笑いヨガを学び、帰国後に日本笑いヨガ協会を設立した。笑いは呼吸であると考え、一生「健康」と「ごきげん」を手に入れられる笑トレや笑いケアを開発し、高齢者のケア現場や企業のストレスケアの分野でも指導・講演活動を行っている。日本応用老年学会理事。著書に『ボケないための笑いヨガ』(春陽堂書店)、『大人の笑トレ』(ゴルフダイジェスト社)など。