笑トレで元気に――健康と幸せを呼ぶ“心の筋トレ”(8) 文・日本笑いヨガ協会代表 高田佳子 (動画あり)

イラスト/中村晃子

負の感情は外に出す

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうけれど、遅刻した人を待っている間や退屈な話を聞かされた時は、時間が経つのが遅いと感じた経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

前回、感情の無駄遣いを避けるためには、何かに集中すると良いという話で、少々、集中力が必要な笑いの体操を紹介しました。まだ試していない方は、ぜひやってみてください。「イソギンチャク笑い」は、運動量が多いため代謝が上がりやすく、ダイエット効果や血糖値の降下作用もあります。私がこの連載でいつも「やってみてください」と声を大にして申し上げるのは、感情、つまり心を変えるためには、身体を動かすことが一番だからです。

“心”はどこにあるかと聞かれたら、胸の辺りを指さす人が多いでしょう。心がときめいている意中の相手に会ったり、大人数の前でしゃべったりする時、胸がどきどきします。感情の高まりで、鼓動が速くなるので、心は胸にあると思われていますし、「心臓」には心という文字が使われていますから、胸は心、つまり感情と関係することは、間違いありません。

しかし、実際には感情は「脳」で生まれるといわれています。心ときめく人や聴衆を前にすると、目から入った情報が脳に届きます。その情報を処理する中で脳が交感神経を高ぶらせ、全身にどんどんと血液を送り込むように命令を出すので、心臓がバクバクし、緊張状態をつくって臨戦態勢に入るのです。だから、脳がいつでもきちんと働く状態にしておくことは、極めて大切なのです。

私たちは良くも悪くも記憶というものを持っています。だから、今この瞬間に不安になる必要がないことにも、過去の嫌なことに関連づけてしまい、負の感情にとらわれてしまいます。すると、脳が負の感情をリセットしようと交感神経を高ぶらせたり、血圧や血糖値を上げたりして、ストレスを感じた時に分泌されるコルチゾール(ストレスホルモンとも呼ばれる)という脳内神経伝達物質が出てくるのです。

マレーシアに旅行に行った時のことです。首都クアラルンプールから、ボルネオ島のサラワク州に飛行機で行く日の朝、空港までタクシーで行く予定だったので余裕を見てホテルを出ようとしました。ところが、タクシーが来ないのです。ホテルの人もあらゆる手を尽くしてくれ、やっとのことでタクシーに乗れたのですが、今度は渋滞で動きません。結局、空港に到着したのは搭乗手続きの締め切り時刻である出発40分前。チェックインカウンターにたどり着いたのは35分前で、飛行機に乗せてもらえませんでした。買い直した飛行機代は1人3万円。23時発の便だと安いチケットはありましたが、代金の高い2時間後の便に乗りました。

遅刻の原因は、実は交通渋滞だけではありませんでした。夫の移動時間の見込みが甘かったり、私が支度に手間取ったり、配車ミスやサラワク州は国内なのにパスポートチェックがあることを知らなかったりと、いろいろな出来事が重なりました。誰かの責任にすることもできたけれど、こういう時こそ、誰が悪いと責めるより、脳に悪い記憶を残さないことが大切ですから、ワッハッハと笑って気分をリセットしました。

この経験を踏まえ、今回は、高額な請求書を見ながら笑う「請求書笑い」、脳のお掃除をする「メンタルフロス笑い」を紹介します。映像を見ながら私と一緒に笑ってください。

気持ちを前向きにするのは、考え方ではありません。体を変化させれば、心の変化が起きやすくなるのは、脳の神経伝達物質が変化するからです。ストレスホルモンを下げ、幸福ホルモンを出してくれる笑いの力を借りて、ネガティブな気分をリセットしましょう。

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プロフィル

たかだ・よしこ 兵庫・神戸市生まれ。2009年にインドで笑いヨガを学び、帰国後に日本笑いヨガ協会を設立した。笑いは呼吸であると考え、一生「健康」と「ごきげん」を手に入れられる笑トレや笑いケアを開発し、高齢者のケア現場や企業のストレスケアの分野でも指導・講演活動を行っている。日本応用老年学会理事。著書に『ボケないための笑いヨガ』(春陽堂書店)、『大人の笑トレ』(ゴルフダイジェスト社)など。