気づきを楽しむ――タイの大地で深呼吸(44) 写真・文 浦崎雅代(翻訳家)

再び紡がれた親子のきずな――ブラック&ブラウンとの1週間

「さっきね、道端に子犬が2匹捨てられていたの。あなたのところで飼ってくれない?」

ある朝、ご近所のエーさんご夫婦が家にやってきた。彼らは、瞑想(めいそう)修行やタンブン(徳積み)に励む心優しいご夫妻だ。なんでも、私の家に来る途中、道のそばに2匹の子犬が佇(たたず)んでいるのを発見し、ふびんに思って拾ったのだとか。

しかし、エーさん家族はすでに犬を5匹飼っているので、これ以上飼うのは厳しい。そこで、私たちのことを思い出して連れてきた、というのだ。

私は突然の申し出に戸惑った。生き物を飼うには責任が伴う。ただ、拾った犬を飼ってほしいと依頼されるなんて、まるで子供からのお願いのようだな、とほほ笑ましくも思った。子供のように、純粋にいのちを助けたいというご夫妻の思いを感じて、責任を持って飼おうと決意し、2匹を受け入れることにした。また現在6歳の息子にとって、子犬たちが新しい友達になってくれるのではないか、という期待もあった。

子犬たちとの初めての対面。毛色はそれぞれ黒と茶で、共にメスだ。生後1カ月くらいだろうか。ブルブル震えているだけで、ほとんど動かない。牛乳や水を口元につけても飲まない。困ったなあ、と思いながら見ていると、黒毛の犬がムクッと顔を上げ、じっと私の目を見つめていた。〈この子は怖がっているんだなあ。大丈夫、大丈夫だよ〉と、通じるかは分からないまま、彼らの様子を見守っていた。名前は夫と相談して、色にちなんでブラックとブラウンに決めた。

子犬のブラウン

翌朝。少しだけ水やミルクに口をつけ始めた。ホッとしたのもつかの間、今度は息子が2匹の背中を強引に捕まえて持ち上げ、あちこちに移動させている。息子はかわいがっているつもりだが、丁寧に扱う方法が分からず、雑に扱う。「ブラックを持つ時は、こうやって持とうね」と教えるが、“小さな生き物”が小さな生き物を扱う展開に、私は内心ヒヤヒヤだった。

3日目。ご飯の残りをあげてみると、2匹ともバクバク食べ始めた。そして動き回るようになり、私が通ると足元にくっついてきて甘えるようにもなった。この環境に慣れ、彼らの心もオープンになってきているようでうれしくなった。そうして1週間が経つ頃には、家族の一員のようになってきた。しかし、私たちはその翌日から5日間、遠方に滞在する予定が入っていた。迷った揚げ句、家を空ける間はエーさんご夫妻に預かってもらうことにした。

【次ページ:2匹をエーさんの家まで送り届ける道中で】