内藤麻里子の文芸観察
内藤麻里子の文芸観察(6)
「山姥(やまんば)」「班女(はんじょ)」「葵上(あおいのうえ)」など、能の演目から触発された短編8編を収めているのが、澤田瞳子さんの『能楽ものがたり 稚児桜』(淡交社)だ。古代日本を舞台に、人々の生きる姿を自在に描いて、流れるように物語を紡ぎ出してみせる。この作家ならではの短編集と言っていいだろう。
内藤麻里子の文芸観察(5)
我々はそれぞれの生まれや育ち、仕事、家庭、趣味・嗜好(しこう)、その時々の事情や時代などさまざまな背景に照らされながら、今この瞬間を生きている。そういう人間というものを映し出すかのように、登場人物を包括的にとらえようと試みているのが辻原登さんの『卍(まんじ)どもえ』(中央公論新社)である。
内藤麻里子の文芸観察(3)
海外で起きた銃乱射事件のニュースに触れると、我々はとかく何人死傷者が出たか、事件の背景は何かに目を奪われがちだ。しかし、不幸にも現場に居合わせた人々というのはただ逃げるだけではなく、そのとき何らかの問題に直面しているケースもあったろう。そんなことを手の込んだ仕掛けで見せつけるのが、呉勝浩さんのミステリー『スワン』(角川書店)だ。
内藤麻里子の文芸観察(1)
芥川賞を受賞した『火花』、『劇場』と小説を発表するたびに話題を集める、お笑い芸人にして作家の又吉直樹さん。注目の新作『人間』(毎日新聞出版)は、一層パワーアップした思索に幻想的な場面のスパイスも効き、どうしようもない人間の姿をつきつけてくる。