内藤麻里子の文芸観察

内藤麻里子の文芸観察(35)

中高年になると体のあちこちに脂肪がつき、健康診断の結果も思わしくなくなる。誰でも一度は「泳いでみようか……」という言葉が頭をよぎるのではないか。そんな時には篠田節子さんの『セカンドチャンス』(講談社)が超お薦めだ。

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内藤麻里子の文芸観察(34)

今最も注目されている作家の一人が、新川帆立さんだ。「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した『元彼の遺言状』で、 2021年にデビューしたばかり。同作は先ごろテレビドラマ化(フジテレビ系)され、新作『競争の番人』(講談社)は刊行を待ちかねたようにこの7月からドラマ(フジテレビ系)が始まる。

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内藤麻里子の文芸観察(33)

映画の特殊効果に対する愛と、ものを作ることへのリスペクトと、女性が仕事で生きていくことへの共感がぎゅっと詰まっている。深緑野分(ふかみどり・のわき)さんの『スタッフロール』(文藝春秋)はそんな小説だ。舞台はニューヨーク、ロサンゼルスとロンドン、主人公はアメリカ人とイギリス人の女性2人。この設定にもかかわらず、一気に物語世界に引き込まれた。

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内藤麻里子の文芸観察(32)

男たちの世界を描くのに、女の視点や登場人物を配置して新しい風を吹かせた小説が期せずして最近、相次いで刊行された。今回はいつもと趣向を変え、その3作を紹介しよう。

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内藤麻里子の文芸観察(31)

自分のやりたいことは何だろう。私にはどんな仕事が向いているのか。若い頃から我々はずっとそんなことを考えているのではないだろうか。角田光代さんの『タラント』(中央公論新社)は、「使命」「賜物(たまもの)」「才能」などの意味を持つ題名だ。主人公は、タラントとは何か、自分にタラントはあるのかと考え続ける。その姿は、しがない私たち自身に見えてくる。

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内藤麻里子の文芸観察(30)

浅田次郎さんの『母の待つ里』(新潮社)は、本の装丁とタイトルを一見すると、いかにも郷愁を誘う。けれど、そう見せておいて、実はここに描かれるのは現代人(特に都会に住む)の空虚さと、地方と都会の格差だ。

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内藤麻里子の文芸観察(29)

2020年『化け者心中』で小説野性時代新人賞を受賞してデビューした蝉谷めぐ実さんは、新たな時代小説の書き手として注目を集めた。その蝉谷さんの2作目『おんなの女房』(角川書店)が早くも刊行された。

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内藤麻里子の文芸観察(28)

夜空の月を見て心慰められることもあれば、冴(さ)え冴(ざ)えとした月光は孤独や狂気をはらむように感じることもある。そんな月に触発され、『竹取物語』の昔から幾多の物語が生まれてきた。今また新たな物語が誕生した。小田雅久仁さんの『残月記』(双葉社)である。

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内藤麻里子の文芸観察(27)

夏目漱石といえば文豪である。英国留学中、神経衰弱になったとか、胃弱だったとか、妻は悪妻と言われたとかの知識はあった。けれど総じていかめしい印象だった。ところが、伊集院静さんが漱石を描いた『ミチクサ先生』上・下巻(講談社)を読んだら、そんな印象が吹き飛んでしまった。豊かな人間性が香り立ってきたのだ。

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内藤麻里子の文芸観察(26)

若者にこんな思いをさせてはいけない。西加奈子さんの『夜が明ける』(新潮社)を読んで、つくづくそう感じた。ロスト・ジェネレーションの若者を描いているのだが、『漁港の肉子ちゃん』(2011年)、『サラバ!』(2014年)などで知られる西作品らしく、不思議な企(たくら)みに満ち、なおかつ心に迫る小説だ。

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