内藤麻里子の文芸観察

内藤麻里子の文芸観察(45)

誤解を恐れず言えば、読み終わった時、まさか小説でお芝居が観られるとはという、いささか妙な感慨にふけってしまった。それが永井紗耶子さんの『木挽町(こびきちょう)のあだ討ち』(新潮社)である。

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内藤麻里子の文芸観察(44)

砂原浩太朗さんの『藩邸差配役日日控』(文藝春秋)は、藩邸の「差配役」という、現代でいえば会社の“総務部”のような役職を創り出したことがお手柄の時代小説だ。連作短編で日々巻き起こる騒動をつづりながら、底に流れる陰謀を鮮やかに描き出す。

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内藤麻里子の文芸観察(43)

犯罪に手を染めたり、犯罪者として糾弾されたりする人々に何が起きていたのか。川上未映子さんの『黄色い家』(中央公論新社)は、なかなか見えてこない彼らの裏側にある一つの類型に切り込んだ。それは、家にいられない少女たちが模索する生きる道であった。

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内藤麻里子の文芸観察(42)

宮本輝さんの『よき時を思う』(集英社)は、現代のおとぎ話と言ってもいいかもしれない。流れるような文章の美しさと、悠々とした書きぶりを堪能した。

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内藤麻里子の文芸観察(41)

「人の振り見て我が振り直せ」を肝に銘じてきた。例えばホームビデオは他人に見せない、会社で後輩をいじめない、過去の自慢話をしない、などだ。最近は「老害」が気になっていた。そこで、内館牧子さんの『老害の人』(講談社)である。

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内藤麻里子の文芸観察(40)

新しい年の初回に紹介するのは、冲方丁(うぶかた・とう)さんの『骨灰(こっぱい)』(角川書店)である。ホラー小説なので、新年早々に何をと思われる方もあろうが、私たちが畏れるべきなにものか、触れてはならない存在を鮮烈に描き出している。人間の分をもって暮らすという慎みについて、思わず考えをめぐらせてしまった。

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内藤麻里子の文芸観察(39)

テレビドラマ化された「半沢直樹」シリーズや『下町ロケット』などで知られる人気作家の池井戸潤さんが、新作『ハヤブサ消防団』(集英社)で取り上げた題材は、タイトルから分かる通り田舎の消防団だ。企業を舞台にすることが多かった作家が地方を描き、しかも連続放火事件を絡めて、ガッツリとしたエンターテインメント作品を送り出した。

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内藤麻里子の文芸観察(38)

夕木春央さんの『方舟(はこぶね)』(講談社)は、衝撃的な作品だ。極限状態で究極の選択を迫る本格ミステリーなのだが、なんと言おうか、定番の本格ものだと油断していたら、とんでもない目に遭った。

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内藤麻里子の文芸観察(37)

小川哲さんの『地図と拳』(集英社)は、旧満州(現在の中国東北部)を舞台に、日本が第二次世界大戦に突き進む中で生きる人々の姿を描いた新機軸の歴史小説だ。実在の人物はほぼ登場せず、仙桃城(シェンタオチョン)という架空の都市で物語は展開し、SFめいた知的な異空間を現出する。けれど、日中戦争を世界史の中で捉える大きな視点と、そこで生きる人々の個人史がかみ合って時代状況や時代性が見事に浮かび上がってくる。

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内藤麻里子の文芸観察(36)

「ラップバトル」をご存じだろうか。時々テレビで放送していることもある。「ラッパー同士が、即興のラップで相手を『ディス』り合う――つまり罵倒し合う」ものだ。宇野碧さんの『レペゼン母』(講談社)は、こんな若者文化を使った、笑えて泣ける家族小説になっている。2022年の小説現代長編新人賞を受賞したデビュー作である。

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