大人のSNS講座(2) 文・坂爪真吾(一般社団法人ホワイトハンズ代表理事)

画・はこしろ

ネットに溢れる“ネガティブ”、それはどこから?

ここ数年、「差別的な表現」であるとみなされた著名人の発言、企業のCMやポスター、自治体のキャンペーンがSNS上で炎上する事件が頻繁に起こっています。

それらの多くは、SNSのタイムライン上で数時間~数日話題になった後に消えていきますが、中にはテレビや全国紙などの大手メディアで取り上げられたり、ワイドショーでお茶の間の話題になったりするものもあります。

こうした炎上の背景には、「許せない」という怒りを燃やしている人たちの存在があります。怒りは、人間が抱く感情の中で最も強いものの一つであり、麻薬のような中毒性を持っています。

この「麻薬」は、ポケットの中のスマホを開くだけで、24時間365日、いつでも好きな時に使用することができます。スマホでSNSを開けば、画面の向こうに許せない事件、許せない人物、許せない発言、許せない広告が溢(あふ)れかえっており、24時間365日、いつでも好きなだけ、怒りを摂取することが可能です。年齢制限もなければ、法外な購入費用もかかりません。所持や摂取によって逮捕される恐れもなければ、常用していて誰かに気づかれることもありません。まさに食べ放題ならぬ「怒り放題」の状態です。

そして、許せない対象に対して、集団で怒りを爆発させることによって、大きなカタルシス(感情浄化)が得られます。自宅のリビングで、教室の片隅で、駅のホームで、職場の休憩室で、信号待ちの交差点で、たった一人がスマホを通してつぶやいた怒りが「みんなの怒り」へと加工され、SNS上でハッシュタグ(#)を付けられて、瞬時に国内、あるいは全世界を駆け巡るようになっています。

学校で嫌なことがあったら、恋人に振られたら、職場で上司に怒られたら、将来に漠然とした不安を感じたら、とにかくスマホを開いて、いつものヤツ=「怒り」をキメればOK。怒りは決して裏切らない。怒りは全てを忘れさせてくれる。

怒りのもたらす気持ちよさに心を奪われた人は、怒りを発散した後にやってくる罪悪感や後悔の念に襲われながらも、怒りを摂取し続けることがやめられなくなります。心と身体の痛みを一瞬忘れるためだけに、怒りを常用するようになっていきます。

一日中、スマホやパソコンの画面から発せられるブルーライトを網膜に浴び続けながら、文字通り血眼になって「許せない」対象を探し続けるようになってしまいます。

「許せない」がやめられない人たちによって引き起こされる炎上事件の中でも、性に関する要素が絡む表現は、より激しく燃える傾向があります。その一つに、公の場での「萌(も)えキャラ」の使用の是非をめぐる論争があります。

ツイッター上では、2010年代から、「女性の身体を過度に性的に描いた萌えキャラを、ポスターなどで公の場に出すことが許せない」という人たちと、「萌えキャラに難癖をつけて炎上させ、表現の自由を侵害しようとするフェミニストが許せない」という人たちの間で激しい対立が生じています。議論という次元を超えて、意見の異なる相手に対する誹謗(ひぼう)中傷やデマの拡散、ネットリンチのような状況に至ってしまうこともあります。

こうした状況に歯止めをかけるため、私は両者の対話の場をつくることを目指して、2020年12月5日(土)、オンラインイベント『シン・これからの「フェミニズム」を考える白熱討論会(#シンこれフェミ)』を開催しました。

約200名の参加者が見守る中、そしてツイッターでハッシュタグを用いて実況が行われる中、ここ数年の間に起こった公の場での萌えキャラと性表現に関する炎上事件を、ネット論客とフェミニストの研究者が一緒に整理しながら、「燃やす側」であるフェミニストと「燃やされる側」であるオタクが対話するための糸口を模索していきました。

※次回は、SNSで激しく対立する人たち同士が対話を目指す中から見えてきた、意見の異なる相手との付き合い方、そして自分も他人も傷つけずにSNSを有効に活用する方法を考えます

プロフィル

さかつめ・しんご 1981年、新潟市生まれ。東京大学文学部卒業。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。著書に『「許せない」がやめられない SNSで蔓延する「#怒りの快楽」依存症』(2020年・徳間書店)など多数。

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