大人のSNS講座(6) 文・坂爪真吾(一般社団法人ホワイトハンズ代表理事)

画・はこしろ

「嫌な気持ち」をあなたはどこまで許せる?

前回の記事で、ネット通販大手アマゾンで定価の数倍で売られている「鬼滅の刃マンチョコ」を買った話を書いたところ、読者の方から「高額転売」の問題に触れる行為だというご意見を頂戴(ちょうだい)しました。

貴重なご意見であり、本連載のテーマとも関連することなので、今回はこの問題を取り上げてみたいと思います。

まず、アマゾンで「鬼滅の刃マンチョコ」が定価の数倍で売られていること、およびそれを購入すること自体は、法律的には問題ありません。モノの価格が市場の需要と供給のバランスの中で決まっていくことは経済の原理から見ても悪いことではないと考えます。

一方で、定価の数倍で売られることによって、欲しくても買えない人が出てくることは事実です。ネット通販市場の成長もあり、人気ゲーム機や限定キャラクターグッズなどを自分が利用する目的以外で購入し、定価より高い値段で売る「高額転売」は後を絶たず、消費者からは、プラットフォーム側による出品規制や、高額転売を繰り返すアカウントの停止を求める声も上がっています。

つまり、高額転売は、「法律的には問題ないが、倫理的には問題がある」と言えそうです。

SNS上で毎日のように起こっている炎上事件も、そのほとんどは、「法律的には問題ないが、倫理的には問題がある」ものです。

法律に触れる問題であれば、犯罪とされる行為の内容、およびそれに対して科される刑罰は、予(あらかじ)め法律で明確に規定されています。そのため、法律を破った人は、「法に沿って罰を受ける」そして「原則として、それ以上の罰は受けない」ということになります。

一方、倫理的に問題のある行為については、法律で具体的な定義や刑罰が定められているわけではありません。誰かの投稿を見て「なんとなく不愉快」「嫌な気持ちになった」と感じたとしても、それだけで相手に法的な罰を与えることはできません。できるのは、「あなたの投稿を見て、私は不愉快になった」と伝えることだけです。

倫理的に問題のある投稿に対して批判を行うことは、とても重要なことです。高額転売の問題を含めて、世の中には、「法律では禁止されていないけれども、問題のある制度や文化」が山のように存在しています。

そういった現状を変えていくための第一歩は、まず「声を上げる」ことです。SNS社会においては、一人ひとりの声が、社会的な議論を起こし、問題を変えていくための大きなきっかけになります。

ただ、前述の通り、倫理的に問題のある行為については、定義や刑罰が法律で定められているわけではありません。場合によっては、一個人の何でもないような言動が、SNS上の“空気”の中で一方的に「倫理的に問題がある行為」「許せない悪」と決めつけられ、人格攻撃やネットリンチを受けてしまう場合もあります。

声を上げることは大事ですが、注意が必要であることも忘れないでください。「なんとなく不愉快」「嫌な気持ちになった」という個人的な心情を、「嫌な気持ちになる人のことも考えろ!」という「正義の代弁」にすり替えて、SNS上で意に任せて相手を叩(たた)く、という行為には中毒性があります。誰にでも・どこまでも・いつまでもクレームをつけ続けることができるため、「正義の代弁者である私」という立場に居続けることができるからです。

倫理的に問題があると思われる行為を批判することは、非常に重要です。しかし、批判することそれ自体が目的になってしまうと、かえって問題の解決からは遠ざかってしまいます。

また、寄せられた批判を聞くかどうか・回答するかどうかの判断は、あくまで相手側にあります。「批判をする自由」もあれば、「批判を聞かない自由」もあります。批判をしても返事がなかった、もしくは自分の望むような回答が来なかった、ということを理由にして、さらにSNS上での批判を繰り返す……こういった振る舞いは生産的ではありません。

私個人としては、「鬼滅の刃マンチョコ」をアマゾンで買ったことへの批判については、真摯(しんし)に受けとめています。ただし、特に謝罪はしないという立場です。

「なんとなく不愉快」「嫌な気持ちになった」という心情のぶつけ合いを超えて、批判をする側・される側、双方がきちんと言葉によって対話を重ねることができる空間をつくっていく。このことが、社会課題の解決を生業(なりわい)とする私たちNPOの仕事だと考えています。

SNSは本来、異文化や異業種、異国の人の思いや価値観に触れ、学びを深めたり、視野を広げたりするのに役立つツールです。

※次回は、そんなSNSのプラスの面に焦点を当てたいと思います

プロフィル

さかつめ・しんご 1981年、新潟市生まれ。東京大学文学部卒業。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。著書に『「許せない」がやめられない SNSで蔓延する「#怒りの快楽」依存症』(2020年・徳間書店)など多数。