大人のSNS講座(9) 文・坂爪真吾(一般社団法人ホワイトハンズ代表理事)

画・はこしろ

炎上に巻き込まれた場合の対処法

前回は、個人の努力や注意だけでは回避できないリスクがあることを前提にして、どのようにSNSでのトラブルを予防し、対処していくかについて解説しました。

今回は、そうした予防策を講じてもなお、炎上に巻き込まれてしまった場合の対処法についてお伝えします。

SNS上で寄せられる悪意や攻撃については、「基本的にスルー」が定石になりますが、それでも、いったん炎上に巻き込まれると、見知らぬ人たちから、とてもスルーできないレベルの悪意に満ちた通知、リプライ(投稿に返信されたメッセージ)が大量に届くようになります。

見るだけでメンタルを削られるようなメッセージや、これまで誰からも言われたことのないような露骨な罵詈雑言(ばりぞうごん)が飛んできたり、事実と全く異なる内容の投稿が数百回、数千回と拡散・シェアされたりする光景を目の当たりにしてしまうと、どんな人でも、冷静ではいられなくなるはずです。

しかし、こういった状況に陥ってしまった場合でも、「SNSで反撃する」ことは絶対にNGです。あなたが仮に反撃をしたとしても、あなたへの攻撃を煽(あお)っているアカウントからは、あなたの投稿は全てブロックもしくはミュートされている可能性が高いからです。逆に揚げ足を取られて、印象操作の材料に使われてしまうだけです。

彼らは攻撃対象の相手のアカウントをブロックした上で、スクショ晒(さら)し(メッセージアプリでのやりとりやSNSでの投稿など、ネット上の個人のアウトプットをスクリーンショット機能で撮影し、その画像を第三者や不特定多数に開示する行為)をすれば、自らを安全圏に置いた状態で、敵の悪口を仲間と共有して盛り上がることができます。法的にも倫理的にも問題のある行為ですが、こうしたスクショ晒しは、現在のSNSでは日常茶飯事に行われています。

いったんSNS上で増幅した悪意は、一個人の力では止められません。そして、SNS上で増幅した悪意に基づく誹謗(ひぼう)中傷の嵐は、銃の実弾並みの“殺傷力”を持っています。

近年、ネット上での誹謗中傷が原因の芸能人や著名人の自殺が問題になっていますが、職業や年齢に関係なく、実弾を全身に浴びることに耐えられる人はいません。どんなに体力や精神力のある人でも、確実に命を落とします。

SNSで誹謗中傷を受けた場合の対処法は、「弁護士に相談する」、この一択です。決して自分で対応せずに、代理人を立てて対応しましょう。

弁護士に相談する際には、日付の分かる形で、問題の投稿画面をスクリーンショットで保存・印刷して持参してください。スマートフォンだと投稿の日付やURLが映らないので、パソコンで保存・印刷することがベストです。

自分に対する誹謗中傷が書かれている投稿や画像を検索・整理・保存する作業は、精神的にとても大きな負担になります。怖くてスマホに触れられない、動悸(どうき)がしてツイッターを開けない、という人もいます。この作業ができないために、相談や訴訟を諦めてしまう人も多いと思います。そうした場合は決して無理をせずに、信頼のできる第三者に代行してもらうことをお勧めします。

SNSは、印象操作や揚げ足取り、論点ずらしやデマの拡散など、場外乱闘に強い人が勝つ世界になっていますが、訴訟ではそういったことは一切通用しません。SNS上の圧倒的強者は、法廷では圧倒的弱者に転落します。SNS上で争わずに、法廷での解決に持ち込みましょう。「SNSの仇(かたき)は、法廷で討つ」が基本です。

「ネガティブな投稿はしない」「悪意をぶつけられてもスルー」「エスカレートしてきた場合は、決して個人で対応しない」――この三つを意識して、本日もSNSの「安全運転」を心がけていきましょう。

※次回は、コロナ禍で広がるSNSの可能性、デジタル化のプラスの面に目を向けていきます

プロフィル

さかつめ・しんご 1981年、新潟市生まれ。東京大学文学部卒業。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。著書に『「許せない」がやめられない SNSで蔓延する「#怒りの快楽」依存症』(2020年・徳間書店)など多数。

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