大人のSNS講座(7) 文・坂爪真吾(一般社団法人ホワイトハンズ代表理事)

画・はこしろ

「マナーを守ろう」だけでは、トラブルは防げない

SNSが社会に普及してから10年以上が経った現在、SNSを利用する際のマナーに対する啓発や教育は、学校や職場など、さまざまな場面で行われるようになってきています。

「実名や住所など、個人が特定される情報は公開しない」「写真や動画を投稿する前に、一緒に写っている人に確認を取る」「人の悪口や誹謗(ひぼう)中傷など、批判的な内容の投稿はしない」「著作権の侵害や違法なアップロード・ダウンロードは厳禁」――こうした注意や警告を、誰もが一度は見聞きしたことがあるはずです。

私自身も、大学時代にミクシィ(共通の趣味や仕事を持つ者同士がつながるSNS)を始めて以来、15年以上にわたり日常的にSNSを使用しています。使い始めの頃は、まだ20代前半だったので、不用意な投稿で誰かを傷つけてしまったり、不要なトラブルを起こしてしまったり……といった経験もありました。ミクシィへの投稿(日記)も、内容の大半は、いわゆる「黒歴史」=思い出したくない過去の恥ずかしいエピソードや自分語りが満載だったような気がします。

それでも、少なくともここ10年は、一般的なSNSのマナーに反するような投稿をして炎上した、というようなことはありません。SNSを利用している大多数の人は、マナーを守って適切な利用をしていると思います。

しかし、マナーを守って利用していれば、トラブルや炎上に巻き込まれる確率をゼロにすることができる、というわけではないのがSNSの注意すべきところです。

これまでの連載で述べてきた通り、現在のSNSでのトラブルや炎上は、かつてのような「違法な行為や政治的に正しくない言動をした人に対して、批判が殺到する」というシンプルな構造ではなくなってきています。

第5回で取り上げた「偽装炎上」のように、SNSで“誰か”や“何か”を叩(たた)くことをやめられなくなった人たちに狙われたり、議論に巻き込まれたりすることによって、何でもない投稿が「差別発言」「政治的に正しくない発言」と加工して切り取られて、ネットリンチといった被害に発展してしまうこともあります。

反対に、無意識のうちに加害者の側になってしまうケースもあります。人からされた過去の嫌な体験や自分のコンプレックスを刺激されるような投稿を見続けているうちに、知らない間に負の感情が蓄積されて、そのことに無自覚なまま、攻撃的な投稿をしてしまうのです。例えば毎日他人のタイムラインの投稿を見ていて、つい批判的なコメントをしてしまうなどで、いつの間にか加害者のような振る舞いをするようになるケースがあります。自分が見たい情報だけに囲まれている状態では、こうしたリスクに気づくことができません。

現在のSNSには、マナーを守って利用していても、いつの間にか被害者にも加害者にもなる危険性があることをお伝えしてきました。社会活動にSNSを活用する場合、こうしたリスクは、より増大します。

私自身、ネット上で誹謗中傷などの被害を受けて、名誉棄損(きそん)で裁判を起こしたことがあります。裁判を通して、法律的にも社会的にも、私が「被害者」であることが事実上認められたのですが、相手側は「自分こそが被害者」であり、私の発言や投稿が「加害」に他ならないと思って攻撃してきたのでしょう。

不毛なトラブルに巻き込まれるリスクを減らすために、「SNSを一切使わない」という選択も、SNSとの向き合い方の一つです。

ただ実際、「一切使わない」ためには、「正しく使う」以上にさまざまな工夫や知恵が必要になります。極端に言えばスマートフォンを持たないとか。しかし現実には、プライベートだけでなく仕事でもスマホは必需品です。業務上でSNSを利用している人もいるので、「一切使わない」という選択はかなり難しいと言えます。

では、回避できないリスクがあることを前提にして、どのようにSNSでのトラブルを予防し、対処していくとよいでしょうか。

※次回は、そのための具体的な方法を解説します

プロフィル

さかつめ・しんご 1981年、新潟市生まれ。東京大学文学部卒業。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。著書に『「許せない」がやめられない SNSで蔓延する「#怒りの快楽」依存症』(2020年・徳間書店)など多数。