幸せをむすぶ「こども食堂」(3) 文・湯浅誠(NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長)

画・福井彩乃

人との関わりから生まれる“一生ものの言葉”

前回、「コロッケ事件」や「雪の日事件」といったエピソードを通じて、こども食堂が貧困家庭の子に対処している様子をお伝えしました。それは「支援」「対策」と聞いて私たちがイメージするものとは違うけれども、たしかに「支援」「対策」になっている、と言えます。

しかし、こども食堂で大切なものを受け取っているのは、貧困家庭の子や課題のある家庭の子だけではありません。そうした課題のない「ふつうの子」にも、このような場はとても大切なものを提供しています。

たとえば、異年齢集団での遊びです。私が小さい頃は、異年齢集団で遊ぶのが日常でした。小さい子が交じっていると、その子は体も小さいし、走るのも遅いので、全員に同じルールをあてはめると、うまくいきません。そのため、その子は「3回つかまるまで相手チームに取られなくていい」とか、ルールをその子用にアレンジして遊びました。それは、その場にいる全員が楽しめるように、ルールを手直しする体験でした。ルールを守るだけでなく、必要に応じて手直しして、なるべく多くの人が楽しめるように工夫する――そのような体験は、変化が速く、多様化する現代を生き抜く上での大切な原体験となっています。今、そうした異年齢集団での遊びが減りましたが、こども食堂はそうした経験をすべての子どもたちに提供しています。

それだけではありません。みなさんは、子どもの頃を振り返ると自分の背筋が伸びるような、大切な言葉を誰かからかけてもらった経験があると思います。それは誰からだったでしょうか。私の場合は、障害のある兄のためにうちに来てくれていたボランティアの方たちにたくさん遊んでもらい、40年経った今でも覚えているような言葉や体験をいただきました。

同様の体験を語ってくれた熊本・天草市の副市長さんのお話も印象的でした。彼は幼い頃、ご両親が病弱で、ご苦労の多い少年時代を過ごしたそうです。あるとき、地域の普請があって、彼は病弱な両親の代わりに出かけて一日働いた。終わったとき、班長さんがみんなに牛乳1本とパン1個を配った。そして彼にもそれを渡し、「おまえは今日、大人と同じくらい一生懸命働いた。おまえには、これを受け取る資格がある」と言ったそうです。

彼にとって、それは初めて大人にきちんと認められた体験でした。副市長さんは「本当にうれしくて、60年経った今でも鮮明に覚えています」とお話しされていました。つらいときに自分を支えてくれる、思い出すと背筋が伸びる、このような一生ものの言葉を、彼は親でも学校の先生でもなく、「地域の方」から受け取りました。いろんな人との関わりは、このような「ご縁」を生み出します。こども食堂は、地域の方たちが交流する場をつくることで、こうしたご縁を結ぶ機会を多くの子たちに提供しています。

創意工夫によってルールを手直しする体験、背筋が伸びるような言葉を受け取るご縁――それらは、課題のある子に限らず、すべての子に提供されるべきものです。しかし、人と人の縁が薄くなる(「無縁社会」)なかで、そのような機会が子どもたちに提供されなくなってきました。だからこそ、こども食堂が続々と生まれてきました。だから私たちは思っています。こども食堂はすべての子どもたちがアクセスできるように、すべての小学校区に少なくとも一つはあるべきだ、と。

プロフィル

ゆあさ・まこと 1969年、東京都生まれ。東京大学法学部を卒業。社会活動家としてホームレス支援に取り組み、2009年から3年間内閣府参与を務めた。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授、全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長。これまでに、「こども食堂安心・安全プロジェクト」でCampfireAward2018を受賞した。