大人のSNS講座(12)最終回 文・坂爪真吾(一般社団法人ホワイトハンズ代表理事)

画・はこしろ

私たちが生きていくSNS社会の未来

新型コロナウイルスの影響で、他人と対面で会うこと、そして大人数でのイベントや飲み会をすることがはばかられるようになって、はや2年近くになります。

オンラインでの打ち合わせや研修、リモートワークもすっかり日常的なものになり、私も地元の新潟から動かない(動けない)状態のまま、気がつけば、「対面では一度も会ったことがないけれども、1年以上一緒に仕事をしている人」に囲まれている状況になっています。

本連載も、佼成出版社の担当者の方や、いつも素敵(すてき)なイラストを描いてくださるイラストレーターのはこしろさんとは、一度もお会いしないまま1年が経ち、最終回を迎えることになりました(きちんとお会いして、お礼のご挨拶をしたかったです……!)。

年内に刊行する予定の新刊書籍も、編集者とZoomやメールで打ち合わせをしながら、オンラインで全国の当事者や有識者の方々への取材やアンケート調査を行って執筆しました。

直接相手と会って話さない(話せない)ことに関して、さまざまな問題や弊害はあるにせよ、いったんオンラインの便利さ、そしてコストパフォーマンスの高さに気づいてしまったら、もう後戻りはできない、と痛感している人も多いと思います。

コロナが落ち着いた後も、この傾向はおそらく変わらないでしょう。オンラインで容易に完結する業務を無理やりオフラインで行わせようとする上司や会社は、オフラインハラスメント=「オフハラ」と非難されるようになるかもしれません。

あらゆる仕事や作業がオンラインで完結するようになればなるほど、それに比例する形で、「対面で会うこと」の価値は上がっていくはずです。

仕事や人間関係において、「オンラインでサッと済ませたいもの」と「オフラインでじっくり付き合いたいもの」の区分けが進んでいくのであれば、仕事やプライベート、いずれの場面においても、相手にとってオフラインの時間を費やしたい存在かどうか、言い換えれば「オフラインで会いたい人」と思われる自分になれるかどうかが重要になっていくでしょう。

それでは、「オフラインで会いたい人」とは、どのような人でしょうか。

SNSで攻撃的な投稿を繰り返している人、怒りや妬(ねた)み、愚痴ばかりを投稿している人とは、わざわざオフラインで時間を割いて会いたいとは思わないでしょう。物事を「敵/味方」「加害者/被害者」といった二項対立図式でしか語れない人や、意味の分からない横文字や専門用語を振り回している人も、オフラインでは敬遠されるはずです。

SNSでバズりやすい言動は、決して現実世界で評価される言動とイコールではありません。SNSに自らの思考や言動を最適化させてしまうと、「オフラインで会いたい存在」からどんどん遠のいてしまいます。

これまでの回でも見てきた通り、政治・経済から趣味・娯楽の領域に至るまで、SNS上で話題になっていることと、実際の現実で起こっていることの間には、大きなギャップがあります。特定の事件や出来事、人物に対する評価に関しても、SNSと現実世界の間で大きなギャップがあることは、決して珍しくありません。

SNSの世界だけに閉じ込められてしまうと、こうしたギャップに気づくことができず、自分でつくり上げたタイムライン=自分にとって耳触りの良い情報の集積を「客観的な現実」と混同してしまうリスクがあります。

その結果、現実からズレた認識を持つようになってしまい、不快かつ迷惑な言動を繰り返すことで、気がつけば「オフラインで会いたくない人」になってしまいます。

SNSは、その名の通りソーシャル・ネットワーキング・サービス=他者とつながるためのツールであり、自分にとって耳触りの良い情報だけを集めて、その中に閉じこもるためのツールではありません。多くの人がSNSの内側に閉じ込められ、自分にとって気持ちの良い情報だけに囲まれて暮らすようになる傾向は、今後も強まっていくでしょう。

その一方で、SNSの外側にもしっかり意識を向ける人=例えば現実世界から自力で情報を入手・編集して発信できる人、複数の言説空間やコミュニティーを越境できる能力とモチベーションを持った人、意見の異なる立場の人たちを対話でつなぐ役割を果たせる人は、今後ますます重宝されるようになるはずです。

アフターコロナの世界は、「SNSなしでは生きられないが、SNSだけでも生きられない」社会になっていくでしょう。

そうした社会の中では、SNSの長所と短所を理解した上で、「オフラインで会いたい人」になるため、あるいは「オフラインで会いたい人」同士でつながるためにSNSを活用できる人が幸せになれるはずです。

本連載の内容が、あなたが今後SNSとの幸せな関係をつくっていくためのきっかけになれば、これ以上の喜びはありません。1年間お付き合いくださり、ありがとうございました。

プロフィル

さかつめ・しんご 1981年、新潟市生まれ。東京大学文学部卒業。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。著書に『「許せない」がやめられない SNSで蔓延する「#怒りの快楽」依存症』(2020年・徳間書店)など多数。

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