気づきを楽しむ――タイの大地で深呼吸(43) 写真・文 浦崎雅代(翻訳家)

私は、息子のこうした学びの軌跡を通して、ブッダの教えを改めて思い出した。それは「イティバート4」(四如意足=しにょいそく)。物事を成就させるための四つの徳目である。世俗的な仕事であれ、修行であれ、物事を成就させる上で重要なポイントだ。一つ目が、チャンタ。これは「意欲」と訳される場合があるが、正確に訳するのは難しい。要は、取り組んでいることそのものに満足し、取り組みそのものが好きであり、さらに良くなっていきたいと思うことを指す。二つ目がウィリヤで、「努力精進」。辛抱強くやり続けることだ。三つ目がチッタ。「心」という意味だが、ここでは意図を持ち、注意散漫にならずにしっかりやることを表す。そして四つ目が、ウィマンサー。「思惟(しゆい)」と訳されるが、これはいわゆる改善作業だ。つまり、情報を集め、智慧(ちえ)を用いながら、より良くなるよう改善点を見つけて実践していくことである。

息子が小さなその身で、日々やっていること。それが実は、このイティバート4そのものではないかと感じられてきた。特に「チャンタ」。自分がやっていることそのものが好きで、満足しながらやっている姿は、私たち大人がいつしか忘れてしまった純粋さを思い出させてくれるのだ。

お金がもらえるから、昇進できるからなど、仕事自体の楽しさ以外の“ご褒美”があるからやる。私たちはついついそうした思考に流され、それを原動力にしがちである。しかし、本当に物事を成就させる源はチャンタにある。やっているそのこと自体が好きで、誰かに強制されるでもなく、気づいた時には楽しみながらやっている。人が最も力を発揮するのは、そうした時ではないだろうか。

「大人にだってチャンタのパワーはあるよ!」――私は、日々量産されていく段ボール製のトラクターを見ながら、そう息子に背中を押されているような気がしている。

プロフィル

うらさき・まさよ 翻訳家。1972年、沖縄県生まれ。東京工業大学大学院博士課程修了。大学在学中からタイ仏教や開発僧について研究し、その後、タイのチュラロンコン大学に留学した。現在はタイ東北部ナコンラーチャシーマー県にある瞑想修行場「ウィリヤダンマ・アシュラム」(旧ライトハウス)でタイ人の夫と息子の3人で生活している。note(https://note.mu/urasakimasayo)にて毎朝タイ仏教の説法を翻訳し発信している。