気づきを楽しむ――タイの大地で深呼吸(14) 写真・文 浦崎雅代(翻訳家)
イキイキの源泉――思いがけない生き物との出会い
東北タイ・ナコンラチャーシーマー県の自然に囲まれた、ここライトハウスを訪れる日本人にタイの印象を聞くと、必ず出てくるワードがある。それは「犬」だ。「タイには犬がいっぱいいるんですね!」と、驚いた表情で話題にされる。
確かにたくさんいる。それも飼い主がいるかいないか分からないような犬たちが、自由に走りまわっているのだ。犬が苦手な方は怖いという印象を持つだろうし、もちろん噛(か)まれる危険性だってある。しかし皆、穏やかにのんびり暮らしている。ライトハウスの外にも飼い主のいない犬たちがいるが、彼らはエサを自らで探し、時に人間に疎まれながらも、たくましく生き抜いている。
タイでは、寺といえば、そこに犬がいるのが日常だ。ペットとして飼っているのではない。どこからか流れ着いたり、飼い主に捨てられてしまったりした犬たちである。殺生をしないが寺のモットー。だから捨てられてしまった犬たちも殺されることなく、いつからともなく寺に住みついてしまうのだ。
いつからともなく暮らす犬。実は私たちも例外ではない。ライトハウスには10頭ほどの犬がいて、移住した時、ある犬が寄ってきた。白い犬なので名前は「ヒマ(雪の意)」という。当初は全く飼っているつもりはなく、時折ふびんに思って餌をあげていたら、だんだん私たち家族に懐いてきた。頼まれてもいないのに率先して番犬の役割を果たし、見知らぬ人がきたら吠(ほ)えて知らせてくれる。私たちが外出先から帰ってくると、尾を振って真っ先に迎えてくれるようになり、幼い息子も一緒に遊ぶ時間が多くなった。愛犬と呼ぶほどの家族の一員感はないけれど、無視することはできない不思議な関係。それが今の私たちとヒマとの関係だ。