共生へ――現代に伝える神道のこころ(6) 写真・文 藤本頼生(國學院大學神道文化学部准教授)

「神社の保存に期待する」という入所者らの思い

実は現代においても、少子高齢化による地域の宗教施設の維持管理の問題で、先駆的な事例として考えなければならないケースがある。かつて隔離政策が行われていたことでも知られる国立ハンセン病療養施設内にある宗教施設である。療養施設は全国に十三あり、施設内には入所者の心の安寧を願うために、園主導もしくは入所者主導で設けられた神社や寺院、教会が存在する。療養施設自体は、入所者の平均年齢が80歳を超えて高齢化がさらに進んでおり、入所者の減少・不在から将来的には施設の規模縮小や閉鎖が検討されるため、必然的に所内にある宗教施設も護持運営の問題を抱えている。憲法の政教分離の原則もあり、国が宗教施設に対して移転費用などを捻出することも難しく、その点でも困難を抱えている。

小生が長年にわたり調査を行ってきた国立多磨全生園には、永代神社という神社が園内に鎮座している。同社の御祭神は天照大神(あまてらすおおかみ)、豊受大神、明治神宮(明治天皇・昭憲皇太后)。昭和九年に鎮座し、戦後、神道指令による廃絶の後、昭和三〇年に全国敬神婦人連合会の尽力によって同社が再興され、現在に至っている。同社には入所者有志によって永代神社奉讃会が結成されていたが、奉讃会は入所者の逝去等で平成一九年に入所者自治会に引き継がれた。

ハンセン病の国立療養施設「多磨全生園」の敷地内にある永代神社は、伊勢神宮の余材を用い、施設の入所者によって建てられた

近年の同社例祭で入所者自治会会長は、「生きている限りは関係団体の協力を得て祭典を継続していきたい」「入所者がいなくなっても永代神社がいつまでも保存されることを期待する」という旨の挨拶を行っている。今後、入所者が不在となった際に「神社が保存されることを期待する」とした入所者らの意思をいかに尊重し、後世に継承し得るかが課題だ。

現在、園内には保育園なども建設されて社会環境も徐々に変化しつつある。その中で、永代神社の未来をいかに考え、神社の合祀や合併、移転など、どのような形でいかに神社を護持し得るかは、ある意味、この先の日本社会における過疎化、高齢化に伴う社寺や教会など宗教施設の未来を考える上でも大いに参考になると考える。
(写真は全て、筆者提供)

プロフィル

ふじもと・よりお 1974年、岡山県生まれ。國學院大學神道文化学部准教授。同大學大学院文学研究科神道学専攻博士課程後期修了。博士(神道学)。97年に神社本庁に奉職。皇學館大学文学部非常勤講師などを経て、2011年に國學院大學神道文化学部専任講師となり、14年より現職。主な著書に『神道と社会事業の近代史』(弘文堂)、『神社と神様がよ~くわかる本』(秀和システム)、『地域社会をつくる宗教』(編著、明石書店)、『よくわかる皇室制度』(神社新報社)、『鳥居大図鑑』(グラフィック社)、『明治維新と天皇・神社』(錦正社)など。

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