利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(49) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

悪因悪果と善因善果

東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県で緊急事態宣言が3月21日をもって解除された。しかし喜ぶわけにはいかない。実際には、二度も期間延長したにもかかわらず、ここにきて新型コロナウイルスの新規感染者数は東京都などで増加に転じているからだ。緊急事態宣言と言っても実質的な施策が不十分であることをこの連載で指摘してきたが、残念ながら懸念した通りになってしまった。変異株が拡大し始めているので、本来ならば緊急事態宣言が解除できなくなってしまったことを認めて、その内容の大幅な拡充強化を改めて宣言しなければならないところだ。

ところが政府は過ちを認めずに、逆方向に舵(かじ)を切ってしまった。政府は対策強化もするとしているものの、実際には感染の再拡大を容認するも同然だ。助言する専門家組織からは「もう打つ手がない」という意見が出たと報道されているが、実際には、打つべき手を打ってこなかったのだから、緊急事態宣言解除は政治の責任放棄以外の何物でもない。こうして日本政府は再び“対コロナ機能停止状態”に戻ってしまった。

同時に、東北新社やNTTによる総務省幹部や政治家の接待疑惑が連日報じられ、放送を巡る政策が歪(ゆが)められたのではないかとの不信が広がっている。官僚を巻き込んだ政治の腐敗が、上記の機能停止と表裏の関係にあることは明らかだ。先月は、“コロナ敗戦”と言えるような国家的失敗が、人々の投票による結果であるという点で、仏教で言う「悪因悪果」に相当すると述べた(第48回)。

悪因悪果が現実に現れているのなら、「善因善果」も存在する。政治で言えば、アメリカでトランプ政権が敗北し、バイデン新大統領は就任(2021年1月20日)と同時に本格的なコロナ対策を矢継ぎ早に実行し始めた。実際、アメリカの人口比感染者数は2021年1月12日から劇的に減り始め、政治的変化の効果が明確に現れている。人々がこのような因果の理を自覚して、日本政治にもこのような抜本的な変化が生じることを願うばかりだ。

【次ページ:個人における善因善果の科学的立証】