利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(49) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

明るく善い心による幸福という因果の傾向

このような研究成果を因縁果報の考え方から見れば、明るく善い心が「善因」であり、健康・長寿や学業・仕事の成功といった幸福が「善果」に相当する。この因果関係は、統計的な研究によって明らかになった確率的な傾向だから、例外なく必ず起きると証明されたわけではない。人間には、それぞれに環境や状況の相違が多々存在するからだ。明るく善い心で生きている人でも、若くして病気になったり、早逝したりする人がいるのは否めない。でも、善い結果が生じる可能性が高いことが分かったのだから、それを知れば明るく善い心で道徳的に生きようと改めて思う人は少なくないだろう。

こうして、仏教をはじめ諸宗教で教えてきた真理の一部が、科学的に立証された。善い生き方は、幸福をもたらす可能性が高いのだ。このような学問的発見の意味は極めて大きいだろう。これまでは科学の台頭により、宗教を信じない人が増えていた。ところが、この心理学に関しては、宗教と科学とが連係して真理を広げていけるのである。

悪因悪果があれば、善因善果もある。よって私たちは悪因をこれ以上作ることを回避して、日々善因を作り出していくことを目指していきたいものだ。その先に、感染症問題も含めて社会にとって明るい希望が表れてくるに違いない。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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