利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(41) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

物質的経済至上主義ゆえの生命と自然の軽視

つまり、人間の生命だけではなく、自然環境、そして地球の生命圏までもが軽んじられているのだ。その主因は物質的な経済至上主義だろう。

日本では、経済再生担当相がなぜか新型コロナ対策担当相を兼ねており、経済的活動の再開のために感染再拡大への対策を拒んでいる。これはまさに象徴的だ。人の生命よりも経済を優先しているのである。日本のみならず、世界の多くの地域で、経済的発展や物質的豊かさの追求のために、地球の生態系や、地球上の全ての生命を危険に晒(さら)しているのだ。

しかもこのような政策は、結局は感染増により経済的ダメージを大きくしてしまう。自分に責任はないのにコロナ禍で経済的に苦しんでいる人々は、巨視的に見れば、実は文明や政府の物質至上主義の犠牲になってしまっているのだ。よって、困っている人を政策的に支援しつつ、科学的・哲学的、そして宗教的智慧を結集してこの深刻な危機の打開を図ることが必要である。

生命や自然を軽視することなく、環境保全と開発を両立できれば、経済的発展や物質的繁栄はもちろん望ましい。けれども、現下の問題は、後者が前者を破壊しかねないことだ。感染増よりも経済を優先すれば、個々の生命が犠牲になっていく。その同じ発想が自然環境破壊や異常気象をもたらし、マクロな生命圏の全体を脅かしている。

経済至上主義は地球環境問題として現れて久しいが、パンデミック、つまり世界的感染症の出現により、今や感染症拡大の要因ともなって人々の生命を危険に晒している。残念ながら人類は生存の危険に直面しなければ、文明を変革しようとしないのかもしれない。今や、私たちの生命が大なり小なり危機に直面し、「新しい生活様式」に変えざるを得なくなっている。本当の新しい生き方はいかなるものであるべきなのか――。今、全ての人々がいわば哲学者のようになって、この問いを真剣に熟考すべきではないだろうか。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など