利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(33) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

政治の倫理的頽落と精神的再生への希望

この観点から現実政治を見てみよう。天皇の代替わりの儀式や祝典が行われて、多くの人々がそれを言祝(ことほ)いでいる。天皇は元来は神道の頂点であり、政治において精神的な高みが必要だということを想起させる存在だ。上皇は、退位を望まれたメッセージにおいて、「祈り」という言葉を用いられて、象徴天皇制においてもその尊い精神が継続していることを感じさせた。

ところが、「即位の礼」で新天皇に万歳三唱をした首相が率いる内閣には、次々と不祥事が明らかになっている。相次いで重要閣僚が公職選挙法違反の疑惑で辞任した。さらに首相主催の「桜を見る会」に後援会の人々を招待して公的資金で振る舞っていることが国会審議で発覚した。これは公私混同の極みであり、法律違反の疑いも指摘されているので、首相は自分の判断で来年はこの会の開催自体を中止すると発表した。公共的感覚が欠落している点で、これらの事件は倫理的頽廃(たいはい)を示している。大学入試改革でも、経済格差に対する配慮に欠けていることが露呈して民間英語テスト導入が延期された。

現実政治における精神的頽落(たいらく)には暗然とするけれども、発覚すること自体は悪いことではない。膿(うみ)が出ることによって初めて、浄化と精神的再生への道が開かれうるからだ。令和の時代になって眉をしかめることが次々と浮上しているけれども、これを通じて人々が真実を直視すれば、倫理性を政治家に求める声が高まって精神的な目覚めが起こりうるかもしれない。そういった希望を持って、政治の理想を改めて根本から考えていきたいものだ。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など