『利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割』(33) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

徳義共生主義の特色

前回(第32回)に紹介した通り、「徳義共生主義」は古くて新しい思想だ。なぜそう言えるのだろうか。

学問の世界で代表的な政治思想として議論されているのは、自由主義・民主主義やリベラリズム、ネオ・リベラリズム(リバタリアニズム)、社会主義・社会民主主義、共産主義などだ。自由民主党や社会民主党、共産党などは、これらの政治思想の一つをそれぞれ理念の中軸にしている。現実の政治の世界には、国家主義やポピュリズム、さらには専制や独裁もあるが、学問的には支持者はあまりいない。

ところが今日の代表的思想には、倫理性や道徳性の重要性を正面から主張するものがほとんどないのだ。たとえばアメリカの政治哲学や法哲学で中心的な思想となっているリベラリズムは、自由や権利に基づいて考え、価値観や世界観に関わる論点を棚上げする。今日の世界では、多くの考え方が存在するので、どれか一つを政策の基礎にすると、他の価値観などを抑圧しかねないと考えるからだ。

でも、現実には、選挙に際して、「何が善いか」という倫理的問題を念頭に置いて投票する有権者は多い。平和や福祉、環境、生命倫理などにまつわる問題に対しては、各人の価値観や世界観が深く関わっているからだ。特に宗教的な発想を持つ人々は、その教えの観点から世界を見るから、これは当然だろう。

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