利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(33) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

高い精神性を備えた自由民主主義

こうした現実の側面を無視して政治的主張を行っても、現実の世界とずれてしまうから、なかなか多数派にはなれない。これに対して極右や国家主義者は、偏ってはいても、独自の世界観に基づいて強い主張を行うので、今では支持者が増えつつある。

だから、倫理的な善悪を含めて、価値観や世界観についてもしっかりと論じつつ、何が正しいかについてさまざまな人々と深く対話を行って、より善い生き方や世界を実現していかなければならないのだ。「徳義」という言葉を私が使うのは、美徳ある善き生き方は政治においても重要であり、それに基づいて正義を考える必要があると考えるからだ。

そのような世界をつくっていくためには、人々と共に考えて、倫理的に生き、行動していかなければならない。こうして徳義に基づき共生することを徳義共生主義と表現している。

もちろん、今日の世界においては、全ての人の意見が一致することは難しい。だからこそ、倫理的な論点についても深い対話を経た上で、最後は自由民主主義に基づいて決定していくことが必要になる。それによって、民主主義そのものも、衆愚政治に陥ることなく、良質な民主主義へと発展していくことができるのだ。

ポピュリズムが横行しつつある今日、民主主義の質を高めることが肝要だ。政治において忘却されている倫理性を甦(よみがえ)らせて、高い精神性を備えた自由民主主義を実現すること――これこそ、徳義共生主義が新しい思想たる所以(ゆえん)なのだ。

【次ページ:政治の倫理的頽落と精神的再生への希望】