利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(23) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

政治思想の地図

明治維新が大義をめぐる争いだったように、大きな政治的革新には理念が必要だ。今、異例の長期政権となっている一因は、善かれ悪しかれ安倍内閣に一種の政治思想があるからだろう。短期的な政治においては政治的理念にはさほど意味がないように見えることもあるが、一時的な離合集散や盛衰を超えて政治を根本的に動かすのは、やはりその理念なのだ。

私は『武器になる思想――知の退行に抗う』(光文社新書)という本を昨年11月に上梓(じょうし)したが、佼成新聞デジタルのインフォメーション欄で紹介してくださったように、編集者との問答によってこの本が成立している。この企画は、「政治思想って何の役に立つのですか?」という挑発的な問い掛けから始まった。私自身は、それが長期的には歴史を深いところで動かしていると考えているので、本書では、具体的な多種多様の問いに応答して政治思想の意義を明らかにしようと試みた。

共産主義、社会民主主義、リベラリズム、立憲主義、自由民主主義、保守主義などのように、政党が依拠することの多いさまざまな左右の思想についても説明しているので、政治思想の紹介書としても役立つだろう。一目で分かるようにするために政治思想の地図を作って、これらとその変遷を図示し、日本政治の変化もその中に位置付けた。具体的な政治の動きを理解するために役立てばうれしい。

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